アジア物流研究会活動概要

発起人(共同代表者)
  • 花岡 伸也(東京工業大学)
  • 柴崎 隆一(東京大学)
開催方針
  • 発足:2011年10月
  • 年4 回程度の開催
  • 原則的に東京都内にて開催.
  • これまで,国内では関西(4回),新潟,札幌,茨城にて,海外では,米国カリフォルニア,ミャンマー(タイ陸路国境,ダウェー,ティラワ),カザフスタン,エジプトにて開催実績あり
研究会の内容
*本研究会は特定の学会には所属せずに活動する
  • 設立主旨を背景として,定期的に研究会を開催する.
  • 対象は原則としてアジア(北東アジア,東南アジア,南アジア,中央アジア).
  • 最終的には日本およびアジア諸国の物流政策に対する政策提言を目標とするが,新しい研究テーマや ビジネスの発想の場として活用できる場とする.
  • 研究だけでなく実務的にも役に立つアウトプットを考える.特にアジア諸国へのビジネス展開を考え ている企業のビジネスヒントになりうるもの.
  • 何が起こっているかという現状・現象を追うだけではなく,起こっていることに対して当事者・関係者がどう考えているか,普遍性や共通点はあるか,などについて意見交換する場にする.
  • メンバー内で共有可能な自主研究テーマを複数立ち上げることを努力目標とし,可能であれば研究資金に応募する.
  • 年1回程度,メンバーでアジア諸国の現地調査を実施する.
研究実績
アジア・ヨーロッパ大陸間のマルチモード国際物流シミュレーションモデルと政策分析 科学研究費 基盤研究(B),研究代表者:柴崎隆一 期間:2013年4月1日~2017年3 月31 日,総額:10,010 千円
・グローバル・ロジスティクス・ネットワーク下のシミュレーションモデル構築と政策分析, 科学研究費 基盤研究(B),研究代表者:柴崎隆一 期間:2017年4月1日~2020年3 月31 日
・世界規模の全モード統合型国際物流シミュレーションシステムの構築と政策分析への応用, 科学研究費 基盤研究(A),研究代表者:柴崎隆一 期間:2020年4月1日~2023年3 月31 日

設立趣旨

ロジスティクスは経済の大動脈を担っており,あらゆる経済活動はロジスティクスの効率性に大きな影響を受けている.しかし,ロジスティクスと一口に言っても,その全体像を捉えるのは容易ではない. ロジスティクスあるいはサプライチェーンマネジメント(SCM)の「手法」が,国毎・業種毎・品目毎 に異なるのは言うまでもなく,同業種内でも企業毎に独自の方法があり,さらに輸出入する相手国によっても変わってくる.

ロジスティクスやSCM に関する論文や報告書は,大きく2つのアプローチに分かれる.一つは,品目 や国・地域を特定し,ケーススタディを詳細に深く分析することで,そこから新たな知見を見いだすアプローチである.分析には統計的手法が用いられることが多い.経営学や商学の分野でよく見られる手法 であり,世界的にも Business Logistics, Business Management分野として確立されている.もう一つ は,主にオペレーションズ・リサーチ(OR)の手法を駆使し,解析するアプローチである.後者はさら に2つに分かれ,OR 手法の改善を目的とするものと,OR 手法を用いて事例分析し,その結果の解釈か ら知見を見いだすものがある.

後者の研究アプローチについては,OR 分野の研究者によって学術的に大きく発展している.しかし, データ取得制約の問題などから,ベンチマーク問題と比較した数値実験などが多く,実務者に有益な研 究成果を出すのは容易ではない.ただし,確立された OR 手法は先進諸国の物流企業によって実際に活 用されており,その意味では実務に大きく貢献している.

一方,前者のケーススタディによるアプローチは実務者による研究も多々あり,それぞれの知見は有益 であるものの,それを「一般化」するような試みは,実はそれほど多くない.物流,ロジスティクス,SCM の多様性と言ってしまえばそれまでだが,ケーススタディから得られた知見とその有用性については, 少なからずギャップが見られる.ロジスティクス,SCM の現場は非常に複雑である.現場の実務者は実 情を良く理解しており,何がボトルネックとなっているかなど,自社については課題を十分把握している.しかし,その多くは企業秘密であり,表面に出ることは多くない.他方で,研究者は例えば国レベルのマクロデータ等を用いた分析などを通じて,俯瞰的に見て何が問題であるか把握し,その解決策を示 すことができる.ところが,企業単位のミクロなロジスティクスやSCM の実情を十分に理解していない と,マクロでは”策(Strategy)”を示すことができても,ミクロまで活用できる"術(Tactics)"として生かせないことにもなりうる.

冒頭で述べたとおり,ロジスティクスは一国の経済に大きな影響を与えるものであり,ロジスティクスシステムの改善のみならず,インフラ不足,制度の不備,商慣習などボトルネックが何であるのか理解 し,解決策を考えていく必要がある.ロジスティクスや SCM が十分にできあがっていない途上国であれ ば,その改善により一国の産業構造を良い意味で大きく変えてしまう可能性もある.Leap-frog効果が期 待できるのである.先進国,新興国,途上国の入り交じったアジアのロジスティクスは多様で,現状把握さえ十分ではない.物流企業を対象にしたミクロなケーススタディによる知見を「一般化」し,そのモデル化(必ずしも数学的なモデルとは限らない),さらには政策提言につなげられるのではないか,というのが発起人の思いである.その結果として,政府・行政による制度的支援・規制緩和あるいは有効なインフラ整備の必要性につながると考えている