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東京海洋大学海洋環境科学部門石田・岡井研究室(海洋生化学研究室)


研究概要CONCEPT


研究の主なキーワードは、「環境適応」、「環境保全」、「海洋」、「極限環境微生物」、「酵素」などです。目指す研究目的は、微生物や酵素が環境にどのように適応して働いているかを解明し、これらを環境保全へ利用していくことです。主な研究対象は、海洋環境、特に深海などの好圧・低温環境で生息する極限環境微生物を中心に、淡水も含む環境微生物です。こうした目的に向かって、以下のテーマで研究しています。


研究テーマ(石田)

I. 高圧適応の分子レベルの仕組み
 極限環境微生物の中で、好熱菌の高温適応機構、好冷菌・低温菌の低温適応機構は相当に分かってきています。対照的に、深海などに生息する好圧菌・耐圧菌の高圧適応機構は、現在まで殆ど分かっていません。そこで、海洋中層〜深海から低温・高圧に適応している極限環境微生物を探索し、好圧性リパーゼや好圧性プロテアーゼなどの高圧適応酵素を得ました。高圧適応機構解明を目指し、これら酵素の構造と圧力特性の関係を、圧力特性の異なる酵素間での比較、部位指定変異法や進化工学によるアミノ酸置換などによって研究しています。

夢ナビ・サイト『極限環境微生物の酵素を環境や産業に生かす』が公開されています。このサイトの30分ミニ講義『海の極限環境微生物を環境保全に活用』をご覧ください。

生分解のしくみの解明が楽しみ。研究を通じて、環境保全に貢献したい ー東京海洋大学 石田真巳教授|カネカ生分解性バイオポリマー Green Planet|公式note編集部 (kaneka.co.jp)

II. 低温・高圧の海洋環境でのプラスチック分解微生物と分解酵素
 
現在、世界中の海洋がマイクロプラスチックMPsに汚染されています。MPsは海表面から沈降して低温・高圧の深海まで汚染しています。抜本的な解決策として生分解性プラスチックが注目される様になりましたが、従来の生分解性プラスチックは海洋微生物による分解を受け難いものばかりでした。近年、海水中で分解される新しい生分解性プラスチックが開発されつつありますが、分解微生物側の情報は僅かしかありません。そこで、種々プラスチックの海洋での分解の仕組みを解明するため、低温・高圧の海洋環境を中心に生分解性プラスチックやMPsの分解微生物を探索し、各細菌の分解能や分解酵素を研究しています。

III. 地下水中の鉄酸化微生物の解析
 
地球温暖化の進行とともに荒天が多発し、河川や湖沼だけでない安定な淡水源として地下水への期待が高まっています。地下水利用のハードルの一つに、水中に僅かに存在する微好気性鉄細菌が水中の鉄イオンを酸化して鉄さび化・集積させ、汲み上げ機器(水中ポンプや配水管など)を詰まらせる現象があります。環境へ低負荷の防止法開発を目指し、この現象に関わる微生物レベルの仕組みを人の森株式会社と共同で研究しています。

IV. 海藻からのバイオエタノール生産
 
地球温暖化につながる大気中の二酸化炭素濃度上昇を抑える対策の一つにバイオエタノール利用があります。海に恵まれた我が国では、未利用バイオマスである海藻を原料とすることが期待されます。褐藻がもつ多様な構造の多糖類を酵素分解し、エタノール発酵酵母と組み合わせたバイオエタノール生産を目指しています。そのため、海洋好冷菌や低温菌から基質特異性や温度特性の優れた酵素を探索・解析しています。

V. 長鎖ポリアミンによる好熱菌DNAの高温適応
 好熱菌は、80℃などの高温環境に生息していますが、単離したDNAの耐熱性は、常温生物のDNAと大差ありません。細胞内では好熱菌特有の長鎖ポリアミン等がDNAに結合し、熱変性から保護しているのです。好熱菌を60℃等の低温で培養すると細胞内に常温生物と同種の短いポリアミンが多くなり、80℃等の高温で培養すると保護効果のある長鎖ポリアミンが多くなります。しかし、長鎖ポリアミンの合成機構や高温適応機構は未知です。これらを解明するため、ポリアミン合成に働く好熱菌酵素だけを試験管に入れたin vitro再構成系を利用して研究しています。


研究テーマ(岡井

I. 海藻多糖分解酵素の反応機構解明

 海藻は緑藻、褐藻、紅藻に大別でき、それぞれには骨格多糖、粘質多糖、貯蔵多糖が存在しています。これらの多糖及び分解されたオリゴ糖は機能性食品、医薬、美容用品の開発につながることが期待されていることから、多糖分解酵素を対象として分解反応を詳細に調べ、特定の切断様式を保持した酵素を創出することを目的としています


II. サンゴの自然免疫に関わる抗菌ペプチドの作用機序の解明
 
「海のゆりかご」とも呼ばれるサンゴ礁には全海洋生物の約25%が生息しており、生物多様性の保全上、極めて重要な生態系です。しかし、地球温暖化による海水温上昇の影響により、サンゴの免疫力が低下したり、病原細菌の毒性が強まったりしてサンゴの病気や白化が急増しています。その中でも最も重篤な病気の一つが、病原細菌Vibrio coralliilyticus(以下「VC」と称する)が引き起こすビブリオ感染症です。 サンゴに侵入して増殖したVCは、体内に共生している褐虫藻の破壊(細菌性白化)や組織分解による壊死(ネクローシス)を引き起こします。そこで、サンゴが病原細菌などの外敵から身を守るために備えている自然免疫機構に着目しており、主要なエフェクターである抗菌ペプチドの作用機序を明らかにすることを目的としています。

III. フグ毒に結合するタンパク質の生体防御機構の解明
 
フグは強力な神経毒であるテトロドトキシン(TTX)を選択的に取り込み、肝臓や卵巣など特定の組織に蓄積します。TTXの輸送や蓄積にはTTX結合タンパク質が関わっていますが、同時に自身がTTXから身を守る生体防御の役割も担っていると考えられています。これらTTX結合タンパク質の構造を決定し、TTX結合様式を推定することでTTX防御機構を明らかにすることを目的としています。これらの結果はTTXを特異的に検出する検査試薬への応用やフグ毒中毒の解毒剤開発のリード化合物への利用が期待されます。


IV. プラスチック分解菌の探索
 プラスチックが紫外線などによって劣化し、砕片化したたものはマイクロプラスチックであり、現在海洋中に多量のマイクロプラスチックが拡散しています。これらは生物濃縮により人や海洋生物への影響が懸念され、問題視されています。プラスチックにはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)などがあり、これらの分解微生物及びそこで働く酵素については報告例がほとんどなく、自然界からの単離を目指しています。


夢ナビ・サイト『海の環境を守る微生物と酵素』が公開されています。


研究手法 タンパク質の立体構造解析
 生体内の働きには様々なタンパク質(酵素)が影響を及ぼしていることから、個々のタンパク質の働きを調べることは非常に重要なことであると言えます。タンパク質の働きを理解する手法の一つとしてX線結晶構造解析があり、タンパク質の「かたち」を目で見える形で捉えることができます(下図 タンパク質レベル)。X線結晶構造解析等含めた様々な手法を組み合わせてタンパク質の反応機構を解明し、機能を高めていきたいと考えています。




 


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