低炭素社会を実現するための極小エネルギー輸送体系の構築

第三層 個別技術

食品の品質保持技術導入による環境影響評価に関する研究

濱田 奈保子
濱田 奈保子 HAMADA Naoko

海洋生物資源学部門・食品流通安全管理専攻

 震災発生以降,食品の貯蔵・品質保持技術への関心が高まっている.当研究室では災害時の備蓄という概念に加え,食品製造時における地球環境への負荷の抑制及び食に対する新たな付加価値の提供を目指して,脱水シートおよび通電加熱を用いた生鮮食材のロングライフ化技術を提案する.脱水シートは,塩蔵や乾燥など,従来の手法とは異なった水分コントロールによる食品の貯蔵技術であり,生鮮食品の品質の変性を抑えることが可能である.また通電加熱を用いた無菌充填包装技術は,レトルトをはじめとした従来の加熱殺菌技術と比較して,環境への負荷が少なく,従来の手法に匹敵する品質の製品が製造可能である.このような,一貫した食品の貯蔵性向上をテーマとした研究は,今後の食糧事情に大きく貢献するものであるといえる.

「脱水シートを用いた魚介類の品質保持技術」

研究の目的

食品の貯蔵方法としては主に温度制御, 水分制御, 雰囲気制御の方法がある. 一般的に, 乾燥や塩蔵といった従来の水分制御の方法では食品の品質変性という問題がある.これに対し,浸透圧を利用して水分を取り除く脱水シート(商品名:ピチットシート,オカモト(株)が販売)を用いることで,食品の変性を抑え,品質を保持したまま保存できる.

これまでに脱水シートそのものの詳細な性質評価に加え,魚介類を包装した際の脂質酸化防止,調理性向上効果についての報告がなされてきた.魚介類は種によって,水分含量や脂質含量が大きく異なるうえ,構成成分も多種多様なため,種ごとの検討が必要である.当研究室ではこれまでにクロマグロ, ブリ, サンマ,  イワシ類, サバ類, タラ類などについて,脱水シートによるK値上昇抑制,におい低減および色彩の向上などの品質保持効果を確認してきた.本研究では, 脱水シート包装による品質保持効果と環境負荷を考慮した水産物流通の在り方を提案することを目的とした.

特徴・優位性
  • 漁獲地でフィレーに加工し,脱水シートで包装・流通することで品質を保持したまま環境負荷の低減が可能
  • 旨味の凝縮といった調理性の向上
  • 色素の濃縮による色彩の向上
  • 吸水シートでは表面が乾燥する割に水っぽいのに対し,脱水シートでは食品内部から均等に脱水可能
脱水シート&フィレ輸送によるCO2削減量を算定
現在、タラ類を対象とした脱水シート&フィレ輸送によるCO2削減量を算定して, 2012年度に学会発表予定

「通電加熱を用いた生鮮食材の新規加工技術」

研究の目的

レトルト殺菌技術は食品のロングライフ化技術の一つであり,レトルトパウチ食品や缶詰などは,その貯蔵性・簡便性から,防災用食品として,また手軽に喫食できる食品としても消費者から根強い需要を獲得している.

しかし,レトルト殺菌技術は熱媒体を用いる外部加熱であり,二酸化炭素の排出や,多量の冷却水を消費するため,環境への負荷は甚大である.また,熱媒体として水や水蒸気を用いるため,使用するエネルギーが大きい.

このような背景から,本研究では新規の加熱殺菌技術として食品に直接交流電流を流すことにより,食品を抵抗として自己発熱させる通電加熱殺菌と無菌充填包装を組み合わせたロングライフ化技術を開発することを目的とした.

特徴・優位性
  • 通電加熱により魚肉や鶏肉を殺菌し,無菌的に包装容器に封入することで,長期間無菌状態に保つことが可能(食品衛生法によるレトルト食品の微生物検査基準に合致)
  • 温度変化と導電率との間に高い相関が見られたことから,導電率から温度を推定することが可能
  • 通電加熱殺菌処理による食品の品質は,レトルトとほぼ同等
通電加熱&無菌充填包装技術とレトルト技術のCO2排出量
現在、鶏肉を対象とした通電加熱&無菌充填包装技術とレトルト技術のCO2排出量を比較検討中
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