Dar es Salaam空港に無事着陸したとたん,隣席のタンザニア人ビジネスマンが
”Welcome to the land of peace!”と嬉しそうに声をかけてくる.短い旅を終えた今,
その言葉の意味をかみしめることになった.「微笑みと平和の国」タンザニア.
今回は,「心優しきタンザニア人」の断片を紹介できればと思う.
タンザニアの首都はダルエスサラーム…ではなく,そこから450Km内陸の
地理上の国の中心地,Dodomaである.今回の仕事は,Dodomaであったので,
ダルエスは1泊で,早速,陸路6時間,Dodomaへ向かう.これはその途中,
Morogoroのバス乗り換え場の近くの風景.乗客にパンや,フルーツを売り
つける売り子の姿.
郊外部だと,荷台に人を乗せたトラックが目立つ.これで100km/hで疾走する.ちなみに,
タンザニアでは中古の日本車が中東経由で大量に運ばれる.そのため,特にダルエス市内
では,日本以上に日本車のシェアが高いのだ.日本と同じ左側通行なのも理由の一つ.
車ではないが,Tシャツの世界的な流通市場のターミナルもここタンザニア.これは
アメリカの経済学者が書いた好著,「あなたのTシャツはどこから来たのか」に詳しい.
国際経済の入門書としても興味をそそられる本です.
これはダルエスからDodomaまでの道程図.ベトナムでもよく試みた,ハンディGPS
(SONY製)で緯度経度記録を取ったデータを簡単に処理した結果.緯度経度のスケールは
ずれています.実際は,もっと横長の図だ.
緯度経度記録から速度を算出した図.途中,1時間程度の休憩を挟んでいるが,ところ
どころで速度低下が見られるのは,村落が沿道にあり,ハンプや横断歩道により速度
低減をせざるを得ないため.すなわち,ダルエスからDodomaまでの道のり,コンスタント
に村落が(低密度だが)張り付いているのだ.これは予想外であった.豊かな大地に
暮らす農民国家なので,至る所で生活が成り立つのだろう.
Dodomaのセミナー会場.半年前にできたSt.
Gasper Conference Centerというところ.
完成直後ということもあり,大変綺麗な施設+宿泊環境 であった.ここで後述
する,JICA主催のLBTセミナーが開催された.
セミナーのタイトルは,”Labor Based Technology (LBT)” である.LBTとは,貧困地域の
道路建設を,拙速に機械化施工で行わず,多少時間はかかっても,地元民の手作業に
委ねよう というコンセプトである.貧困削減や,地元への直接的な経済投資効果を
意図した方法だ.写真は,最初のKeynote Speechを行っている,ダルエスサラーム大学の
Lema教授.本研究室社会人博士の卒業生,徳永さん(㈱日本技術開発)のスワヒリ語に
よるプレゼンはこちら.さすが二十数年のキャリア,流暢です.
ILOが作成した,LBTのポスター.
細かい数値を読み込むと,何を意
図したプロジェクトであるか,容
易に想像できる.JICA作成のLBT
解説資料はこちら.
なかなか想像できないとは思うが
仕事を作り出すこと自体が困難な
途上国にとっては
重要な方法論だ.
セミナー会場の近くで行われているLBTの現場.機械を殆ど使用することなく,
自分の使うコミュニティ道路を自ら作り出す(もちろん舗装道路ではない),
その過程を見ることができる.道路といえば舗装道路しか頭にない我々日本人と
違って,未舗装でも村落まで道路ができれば,乗り合いバスも近くまで来るし,
井戸への水汲みだって楽になる.それで子供の就学機会も増えるかも知れない.
そんなQuality of Life創出効果を頭に描く必要があるのだ.
LBT現場を眺めていた子供たち.かじっているのはサトウキビ.
おやつ代わりのようだ.裸足の子も多いですね.
Dodomaの遠景.首都とはいえ,殆ど形式的なので(国会はあるが…),人口20万程度の
地方都市.タンザニア国土は日本の2.5倍程度の広さなので,やはり地理的中心地に首都を
おく必要はあったようだ.ちなみに,タンザニア人口は3700万人程度で,ダルエスサラーム
に350万人が集中している.
Dodoma中心地から歩いて10分程度の場所.
夕方6時頃に撮った写真なので,テーマは
”going home”.帰る先は,煉瓦積みの面積
6m×5m程度の住居だろうか.住居形態も
是非,機会があれば調べてみたい.
Dodoma空港横の帰宅風景.これもテーマは”going
home”.夕日がやたらと美しい.
この後,Dodoma Hotelの中庭で陽が落ちた中,同行者と談笑していたが,突然停電
(停電は多い).その刹那,信じられないことに,真上に広がる夜空にクッキリと
したmilky wayを伴った満天の星空が.学部のサイクリング部時代に一度だけ長野の
山奥で見た,『息を呑む』星空を久しぶりに体験した.直後に電力回復したので,
数十秒の出来事であったが,心に残るaccidentであった.その時の星空は,これ.
魚市場で,小魚を捌いている.捌かれた魚は市場の中の調理場で唐揚げなどにされ,
夕餉を求める地元民の食卓に並ぶのであろう.ん? 衛生環境は気にしても仕方ない.
こんなものだ.
最後はダルエスサラームの都市交通編.2007年度,JICA支援でダルエス都市交通マスター
プラン作りが進められている.すでにHIS(Household
Interview Survey: パーソントリップ調査)
も無事終了し,種々の代替案が検討されつつある.World Bankの肝いりでジャカルタのような
BRT(Bus
Rapid Transit)が2009年には導入予定である(ITDPサイトに詳しい).しかし,
中心部から一皮裏に行けばこのような居住地が広がる都市だ.幹線の容量拡大は歓迎
できるが,都市全体の職住バランスはまだまだいびつである.
右側の車線で大変な渋滞が発生している様子がわかる.渋滞の要因としては,①不適切な
信号現示パターン,②交差点設計の不備,③乗り合いバス(daladala:「ダラダラ」と呼ば
れる)の無茶な運転 などがある.いずれも短期的な解決も可能な範疇にあると思うが,
その道筋は不明確.市内で,日本の援助で作られている道路もあり,システム改善は着々
と進んでいるのは事実だ.JICAのマスタープランがこの都市の未来理想図実現のmilestone
になることを期待したい.
最後の最後,ダルエス市内の海上交通風景.ホーチミンとのデジャブーを禁じ得ない.
それはさておき,今回,アフリカの地方部の生活実態に接することができた.そこには
貧しくも芳醇な生活の豊かさがあったように思う.「貧しさ」と,「豊かさ」.あまり
対立的に位置づける概念でもないのかも知れない.
タンザニア人の微笑みと平和にほだされ,色々考えさせられた出張であった.