魚類体表粘液のもつ生理活性物質とその作用
 
魚の体表は微生物などの外敵から身を守る一次バリアーとして重要で,粘液中には抗菌・抗微生物物質、酵素、酵素阻害剤、毒素など様々な生理作用をもった物質が含まれています.このテーマは幅が広く,スクリーニング(宝探し)に始まり,物質の精製と同定,構造解析,分布や作用メカニズムの解明,さらに魚がこれら物質をどこでどのように作り,どう利用しているのか?なぜ魚はこのような物質をもつのか?など生物の立場からアプローチすることもできます.
ときには魚の気持ちになって,いろいろな見地から研究に取り組んでいます.
 

 
     
 



フグの毒化メカニズムと防御機構

 
フグはどうしてフグ毒をもつことができるのでしょうか?現在でもナゾだらけです.我々はフグが毒を取り込む(貯め込む)ことにポイントを絞り研究しています.これまでの研究結果から,どうやらフグは特別な方法で毒を取込んでいることがわかりつつあります.また,フグは取り込んだフグ毒をどのようにして貯め込んでいるのでしょうか?意外なことに,フグにとってフグ毒はやはり毒なのです.フグは毒で中毒しないような工夫がされているはずです.その一つの方法は毒を生体成分と結合して毒性のない形に変えてしまうことです.フグにはフグ毒と結合する特別なタンパク質成分があることがわかっています.
私たちはフグのもつ不思議なメカニズムに魅せられ,その謎を解き明かし,そして近い将来毒のない安全なフグを作れるようにしたいという大きな夢をもって研究に取り組んでします.
フグ毒をもつのはフグだけではありません.ある種カエル,カニ,タコ,巻貝などからもみつかっています.これらフグ毒をもつ動物がフグ毒結合タンパク質をもつことは容易に想像できますが,フグ毒とは無縁のイソガニというごくありふれたカニがなぜかフグ毒結合タンパク質をもっています.一体何のためにもっているのでしょうか?私たちはこれをフグ毒中毒治療薬の開発に役立てたいと考えています.
 

 
 



海洋生物毒(マリントキシン)の検査分析

 
 フグ毒とそれと似た作用を示す麻痺性貝毒について化学的分析法(高速液体クロマト法,薄層クロマト−質量分析法,センサー法,アフィニティー法など)を開発しました.その結果,毒を高感度で特異的に測定することが可能になり,自然界における毒の分布や移動,毒成分の変換や代謝に関する研究が進展しました.これら分析機器を駆使して,麻痺性貝毒は食物連鎖により原索動物のマボヤや藻食性巻貝のセイヨウトコブシも毒化すること明らかにし,また,フグ肝細胞におけるフグ毒のミクロな分布をみることができました.
 

 
 
     



海洋由来タンパク質のおよび関連酵素の構造と機能解明

 
魚貝肉タンパク質の高次構造,構造形成機構,加工特性発現機構,構造・加工特性相関,ならびに魚貝肉関連酵素の高次構造,触媒機能発現機構をタンパク質工学の手法を駆使することによって分子レベルで研究しています.特に,魚貝肉の主要構成タンパク質であるミオシン分子の特異性を遺伝子レベルで解明中です.一方,関連酵素については,魚貝肉中に内在する各種のタンパク質分解酵素やトランスグルタミナーゼの諸性状を主な研究対象としています.さらに,魚貝肉タンパク質の加工特性を遺伝子工学の手法を用いて改質・付与し,利用性の高いものに転換する研究も進めています.特に,かまぼこなどの水産練り製品の品質制御を目的として,構造・加工特性相関に基づくタンパク質工学的改質を施すことにより,加工特性の優れたミオシン分子の設計を目指しています.
 

 





海洋由来資源の高付加価値化

 
現在,ヒトデ(写真)は全く利用価値のないものとして焼却処分されているのが現状ですが,実はヒトデにはサポニンという物質があり,このサポニンが抗菌性や高コレステロール活性を示すことを明らかにしました.そこで,ヒトデの有効利用を目的に,サポニンの諸性状を解明しています.また,海洋資源にはまだ明らかにされていない様々な物質が存在します.この研究では,海洋資源から特に制ガン剤物質の探索も行なっています.さらに,未利用資源の冷凍すり身化技術の開発,巨大イカの有効利用にも着手しています.
 

 



   

水産食品の履歴分析・評価技術の開発

 
最近,DNAを用いた魚種判別が盛んに行われるようになってきました.しかし,まだその技術は確立していません.現在フグ種を中心に有毒・有害魚類の鑑定をPCR増幅やRFLPなどの手法(写真)を用いて行なっていますが,様々な水産加工食品の簡易鑑定法を確立していこうと考えています.