亜熱帯循環系の構造と変動の研究

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 亜熱帯循環は,海洋の中緯度に見られる大きなスケールの流れであり,いくつかの主要な海流により構成されている.北太平洋の亜熱帯循環では,低緯度側を西に向かって流れる北赤道海流,海盆の西側を北上して日本南岸に沿って東側に流れる黒潮,黒潮から続いて東に流れる黒潮続流,海盆の東側を南へ流れるカリフォルニア海流から成っている.このような表層の循環は,主に海上を吹く風によって駆動されている.
 亜熱帯循環内の表層から中層の水温や塩分の分布には,いくつかの特徴的な構造が見られる.図1は東経137度に沿って観測された水温の南北深さ断面を示している.水温の鉛直分布は,海域により大きく異なるが,北緯20度から30度付近の海域では,水温が50-100m深と300-700m深あたりで急激に変化する層(水温躍層と呼ばれる)が見られ,その中間には水温が鉛直にほぼ一様で水の特性が均質な水塊が存在する.この水塊は,北太平洋亜熱帯モード水と呼ばれる.亜熱帯モード水は,黒潮・黒潮続流の南側で冬季に発達する表層混合層に起源をもち,海洋の循環により亜熱帯循環の北西部海域に広く分布している.
 本研究室では,亜熱帯モード水の起源である混合層の分布や水の特性の年々変動,また,混合層から亜熱帯循環内部への海水の広がり方やその過程での海水の変質などを,Argoフロートなどの海洋観測データを主に解析して調べています.また,亜熱帯モード水などの水塊は,水塊の南側に沿って分布する亜熱帯前線(亜表層の水温密度前線)の維持にとって重要であり(図2),モード水の変動が亜熱帯前線にどのようの影響を及ぼすのか調べています.また,類似するモード水や亜熱帯前線は,他の海盆にも存在しており,北太平洋や南太平洋についても同様の研究を進めたいと考えています.

参考文献

図1.気象庁凌風丸によって観測された東経137度に沿う水温の南北断面図.
図2.北太平洋に見出された3つの亜熱帯前線(STF)と亜熱帯モード水(STMW)及び中央モード水(CMW)との関係.Kobashi et al. 2007より引用.