このページでは、JKAによる「競輪とオートレースの補助事業」の支援により2022年度、2024年度に実施した
研究の概要や成果について紹介しています。
多くの種類の無線通信サービスを利用できる社会が到来していますが、1種類、1つの無線通信リンクで
通信速度、安定性、通信可能距離を満足できるものは存在しません。
無線通信は場所や時間帯でも通信性能が大幅に変動するため、「周囲で今使える無線通信」の中から
通信品質の良いものにハンドオーバする技術、ハンドオーバ時にそれまでの通信を継続できる
シームレスハンドオーバ技術について研究しています。
この研究では、2022年度に開発したSystem on ModuleとFPGAで構成した通信制御装置に対して、
FPGAの正確な周期処理性能を活かしたパケットの固定長化、固定周期配信により無線通信品質を高精度に推定する技術、
IEEE802.11mcやIEEE802.11ahを用いた周囲の無線通信環境の共有と最適化技術、
クラウドサーバを介したシステム構成とすることで利用者がネットワークに関する専門知識を持たなくても利用できる有用性
を特徴とする、移動体向けの複数無線の連携・併用型通信制御システムを開発しました。
FPGAは、PC等の汎用コンピュータが苦手とする時間的に高精度な周期処理を得意としています。
本研究は、この定周期処理性能を活用して、端末間の通信経路でパケットを固定長化、定周期処理することで
パケット送出に関する負荷の一定化やフラグメンテーションによる遅延の影響を緩和し、
パケットの受信側で受信パケットの送出時刻と自身での受信時刻の差をFPGAで計算することで
受信パケットのみから通信回線の遅延時間の高度な推定を行うという挑戦的な技術を開発しました。
開発技術は、複数の無線通信手段を連携・併用する通信アーキテクチャに適用することで
回線毎の遅延や揺らぎの差や変動傾向の把握ができ、今つながっている回線のどれが良好な品質なのかを
判定する指標として利用できると考えています。
開発した通信制御方式を実機に実装して実現可能性を示しました。
また、開発システムは特徴の異なる複数の無線通信技術(例:4G/5G、Wi-Fi)を同時に利用することが特徴ですが、
利用する回線によってはグローバルIPアドレスが必須な場合があります。
グローバルIPアドレスの端末への割り当てや、利用するためのネットワークの設定変更は専門知識が必要であり、
それはシステムの利用シーン拡大の壁になっていました。
そこで、クラウドサーバを用意し、端末にはインターネット接続環境さえ準備すれば利用できるようにするための
システム開発も実施しました。
さらに、IEEE802.11ah(Wi-Fi HaLow)というLow Power Wide Area通信技術と、
端末間の通信に要した時間から端末間距離を計測できるIEEE802.11mcを使い、
周囲のネットワーク環境を広告し、Wi-Fiハンドオーバの手助けをする装置や技術開発も行いました。
利用可能な無線通信方式の種類が増加し、つながった1本の無線接続を主に用いて通信するという使い方から、
無線通信方式の特徴や、利用場所の通信環境を考慮したより良い通信品質を利用可能な社会が到来しています。
異なる種類の無線通信を連携・併用することで1本の回線では実現が難しい通信品質を達成することを目的として、
ゲートウェイ型の通信制御装置を開発しました。通信制御装置はFPGAを用いたハードウェアアクセラレーションを可能とし、
パケット処理の高速化によるスループットの向上も実現しています。
開発した通信制御装置により、移動による無線接続の変化に対する移動透過性と、
冗長通信による通信の安定化を可能としました。
本研究では、複数の無線通信インタフェースを利用可能とする、SOM(System on Module)用のキャリアボードと、
パケット処理をハードウェアで行うためのFPGAボードを主に開発しました。
上図はSOM用のキャリアボードで、中央のスロットにSOMを装着します。
SOMではLinuxが稼働し、M,2接続の無線通信インタフェース、有線LANインタフェース、USB接続の通信インタフェースを装着可能です。
上図はFPGAボードになります。ボード上に実装した有線LANインタフェースを介してSOMキャリアボードとパケットをやり取りします。
冗長処理やヘッダ付与をFPGAがハードウェア的に行うことで処理を高速化できるようになっています。
SOMキャリアボードとFPGAボードを組み合わせて構成する通信制御装置は上図のようになります。
この図では、LTEモジュールとWi-Fiモジュールをそれぞれ2基ずつ無線通信用に搭載しています。
開発した通信制御装置はゲートウェイとして動作し、通信制御装置間で移動透過性と冗長通信をサポートする通信制御を行います。
通常、IP網は接続するネットワークが変わるとアドレス情報が変化し、それまでの通信セッションの継続が困難になる場合があります。
開発したシステムは、移動による接続ネットワークの変化時でも通信セッションを継続可能で、
無線通信品質の変化時にも冗長通信により通信の安定化を図れるよう通信制御を行っています。