海氷面積について

メディア等で値が取り上げられる海氷面積とは、衛星画像1ピクセル(1格子)の海氷密接度(海氷に覆われている割合)が15%以上であるピクセルの総面積で定義される。(海氷モニタのページの海氷面積定義はこの定義を用いている)
英語では、”Sea Ice Extent”と呼ばれ、以下で表現される。

     [Sea Ice Extent]= [海氷密接度が15%以上のピクセルの総数]×[1ピクセルの面積]

Sea Ice Extentで定義した場合、
北極海の全てのピクセルの海氷密接度が100%の場合、北極海の海氷面積は北極海全面積の100%になる。
北極海の全てのピクセルの海氷密接度が20%である場合でも、北極海の海氷面積は北極海全面積の100%になる。
これらが同じ面積というのは、疑問に思いませんか?


”Sea Ice Extent”とは、別の海氷面積の定義がある。これは、”Sea Ice Area”と呼ばれるもので、

     [Sea Ice Area]= [1ピクセルの海氷密接度]×[1ピクセルの面積]×[全ピクセル数]

Sea Ice Areaで定義した場合、
北極海すべてのピクセルの海氷密接度が20%である場合、北極海の海氷面積は北極海全面積の20%となる。
また、すべてのピクセルの海氷密接度が100%の場合は、北極海の海氷面積は北極海全面積の100%になる。


定義の違いによる、海氷面積の違い。これを真実の北極海で見てみると・・・・


[Sea Ice Extent] 100%
[Sea Ice Area] 100%


1997-1998年は写真のカナダ砕氷船デグロシエを1年間氷上に残し、越冬観測が行われた。
前進・後退を繰り返し、氷海を進んだ時代。列車のコンテナを氷上に設置することに何のためらいもなかった。




[Sea Ice Extent] 100%
[Sea Ice Area] 約70%


この写真は、2003年のもので、上記の写真の約500km北の海域。もはや、氷上観測はできない状態。
”Sea Ice Extent”定義で2007年の海氷減少(最小面積)が”値”として注目されたが、
”Sea Ice Area”で見ると、変化は既に進行していたことが分かるかと思います。
北極海の変化のを捉える上では、表面の状態が”海氷(白)”なのか”海面(黒)”であるのか方が大事。

夏季を過ぎれば、北極海は夜の世界に変わってゆきます。放射冷却で冷やされます。
海氷が存在する場所では、マイナス30-40度の世界に変わってゆきます。しかし、海面が露出していれば、
表面温度は海水が凍る温度であるマイナス1.8度程度にまでしか下がりません。
海氷(床クーラー)と海面(床暖房)の違いといえます。
IPCC第4次報告書では、今世紀末、北極域での顕著な表面温度上昇が予測されています。
顕著な表面温度上昇が起こるだろうとされている地域は”北極域”であるのかどうか、図を良く見てみましょう。
表面温度上昇が著しいのは、20世紀末には海氷に覆われていた場所です。つまり、”北極海”です。
グリーンランドなど厚い氷床に覆われている場所では、他の地域と同じレベルの表面温度上昇であると予測されています。
つまり、表面温度上昇は、「北極域」で顕著というのではなく、海氷が消えゆく「北極”海”」で顕著であるというのが
正しい理解かと思います。北極海は地球温暖化の影響を受けやすい地域であるとともに、一旦、海氷が減少し始めれば、全地球の平均表面
温度上昇を加速する存在であることを忘れてはならないでしょう。


数値モデル予測による、今世紀末(2090-2099年)の前世紀末(1980-1999)に対する表面温度上昇[IPCCのホームページより]。




IPCC第4次報告書:
気象庁のページ
IPCCホームページ



<ちょっとしたお話>
北極海に浮かぶ海氷が融けても、
   海面水位は上昇しないというのは本当?

もしも、海水温度が変わらないのであれば、水位には影響はありません。
しかし、海氷がなくなれば、宇宙空間から見れば、熱を受け取らない(白)から、熱を受け取る海面(黒っぽい色)に変わります。熱を受け取れば、海水温度は上昇します。そして熱膨張が起こるのです。北極海沿岸の検潮所データには、実際、北極海の水位が著しく上昇していることが記録されています(最近10年で7cm)。その結果、北極海の海面水位は上昇します。今のレベルの温暖化では、全地球の平均海面水位の上昇に最も効いているのは、氷床融解によるものではなく、海水温の上昇なのです。また、局所的には、海流の変動により水位が変化します。海流変動による水位変化が大きい地域は、黒潮が本州から離岸し東に流れてゆく海域です。いつ、どこで、どのようなメカニズムで変化するのか、知ることが大事でしょう。