北極海・ベーリング海 南極海・南大洋 これまでの研究

 南極海・南大洋
 
  [新学術領域研究「熱ー水ー物質の巨大リザーバ 全球環境変動を駆動する南大洋・南極氷床]

公募課題 「衛星高度計による南極海海氷域の海洋循環の解明と周極深層水の輸送経路の推定
  南極に存在する氷床の融解は海面水位上昇に直結する。現在、南極では棚氷の底面融解が注目されており、その要因の一つとして、外洋に存在する暖かい周極深層水による融解が挙げられている。一方で、南極海は北極海と同様に海氷に覆われており、時空間方向に密な現場観測は困難な状況にある。そこで、北極海で適用した手法を改良し、南極海海氷域での海洋循環場を海面高度計による衛星リモートセンシングで明らかにする。


   海面力学高度データ解析による南大洋の周極流・フロント・渦の正確な時系列変動の抽出(卒論) 
  
 南大洋には南極を周回する南極周極流や海洋フロントが存在する。周極流やフロントの時空間変動の理解は、熱塩輸送や基礎生産・二次生産域の変動の理解に役立つ。本研究では海面力学高度データに新たな解析手法を適用することで、周極流・フロントとさらには渦の時系列変動を明らかにする。

 

 南極海インド洋セクターにおける渦の基礎生産維持メカニズム(卒論)

 南極海では、これまでバイオロギングの観測から海鳥や海産ほ乳類が渦周辺に分布する傾向が捉えられてきた。本研究では、インド洋セクターのAustralia-Antarctic Basinにおいて海鷹丸による観測と複合衛星データ解析から、渦と基礎生産の関係について調べる。
 

北極海・ベーリング海
   [科研費若手(B)] 「冬期北極海におけるボーフォート循環と海洋温暖化の実態解明」

 冬期の海氷下における海洋循環は、海氷形成を遅延させる太平洋由来の暖かい水の行方を決める。しかしながら、ピンポイントの係留系や海氷に設置したプロファイラーのみでは広く海氷に覆われた北極海の海洋循環を把握することは困難である。本研究では欧州宇宙機関が打ち上げたCryoSat-2に搭載されたSIRALというレーダー高度計による観測値から、月平均で海氷下における海面力学高度を求めた。その結果、風応力・海氷運動に応答して、海洋循環は変動していることがわかった。この変動場は現場観測・数値モデルからも検証されている。求めた力学高度データから、トレーサー実験を行い2012年~2013年の冬期は、太平洋由来の温かい海水が通年よりも西へ運ばれていたことが示唆された (Mizobata, K., E. Watanabe and N. Kimura, 2016, Journal of Geophysical Research-Oceans)


図:2012年12月~2013年3月の各月における(上段)海氷密接度・海氷速度ベクトル(赤矢印)・海面気圧(黒等値線)分布および
(下段)CryoSat-2搭載のレーダー高度計データから導いた海氷下の海面力学高度
 
   NASA L-バンドマイクロ波放射計Aquariusによる推定海面塩分の検証・較正
およびアルゴリズムの改良(卒論)
 北極海における淡水収支や海氷融解等による海洋酸性化への影響を調べるためには、現場観測に加えて衛星観測による時空間分解能の高い塩分データが有効になる。本研究では、L-バンドマイクロ波放射計Aquariusによる海面塩分データを現場データにより検証・較正する。また塩分推定アルゴリズムの改良を行う。
 
 
図:改良されたAquariusマイクロ波放射計による推定海面塩分



 
  [IARC-JAXA北極圏研究プロジェクト)]:
ベーリング海における冷水塊分布の変動とそれに伴う珪藻ブルーム・円石藻ブルームのスイッチング


 
冷水塊分布は直接的にはベントスのバイオマス・分布に影響するが,間接的には表層の植物プランクトン種を左右する.前の冬に形成される冷水塊と夏の表層暖水という形成のタイミングが異なる2水塊によって,陸棚の成層度は経年変動する.成層度の強化は,有光層への栄養塩輸送が通常よりも妨げられることを意味する.珪藻の海と言われるベーリング海であるが,夏期表層の貧栄養環境に対応できるのは珪藻ではなく,円石藻である.つまり富栄養であれば珪藻ブルーム,貧栄養であれば円石藻ブルームになるはずである.1997年にベーリング海に突如現れたかに見える円石藻ブルームは,現在はなりをひそめているが,これは冷水塊と表層暖水による成層度に伴う有光層への栄養塩供給の経年変動で説明ができる(Iida et al., CSR, 2012).これらを鑑みると,円石藻ブルームやベントスバイオマスを予測するには表層暖水および下層冷水塊の分布を知っておく必要がある.表層暖水は衛星リモートセンシングで捉えられる.しかし冷水塊分布の把握は現場観測を行う以外,いまのところ手立てがない.冷水塊分布・形成量を予測するには,まずその形成要因を今一度見直す必要がある.冷水塊形成の要因は,冬期の結氷に伴うブラインなのか,それとも大気冷却なのか陸棚域でそれぞれの寄与を明らかにする必要がある.
ベーリング海の成層構造と円石藻ブルームの関係についてはIida et al. (2012, Continental Shelf Research)にまとめた。

 


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これまでの研究
  [GRENE北極気候変動研究事業]:北極海表層混合層推定および亜表層水温極大形成域の特定

 
本研究では大気ー海洋熱収支により混合層内熱量変動が決定されるという仮定のもとに,AMSR-E海面水温データおよび気候値を用いて,表層混合層深度とSML内の貯熱量を推定した.その結果,近年,西部北極海で見られるようになった「亜表層水温極大(Near Surface Temperature Maximum, NSTM)」の形成海域を特定するに至った.NSTMの塩分値は,融氷水もしくは河川水であることを示すことから,その熱源は太平洋水ではなく,日射による加熱といえる.NSTMは20m~40mにあることから,NSTMは比較的深く暖かい表層混合層から冬期に大気へ熱が奪われた名残であると考えられる(Mizobata and Shimada, 2012, Deep Sea ResearchⅡ, Special Issue "Satellite Oceanography and Climate Change").また本研究での仮定は氷縁では成り立たないこと,つまり結氷期の氷縁では,海洋側に熱の流出入があることも見出された. 
 

2007年結氷期直前の北極海における
表層混合層内の海洋貯熱量
(AMSR-Eによる推定値)


  [IARC-JAXA北極圏研究プロジェクト]
ベーリング海陸棚斜面域における中規模渦の基礎生産維持機構の解明


 海洋の植物プランクトンブルームは,春期・秋期に起こるのが一般的であるが,ベーリング海の陸棚斜面域では.春期以降も夏期にかけて基礎生産量が増大する.かねてから,同海域では中規模渦が生物生産に関与しているとされていたが,そのメカニズムは不明であった.本研究では,現場観測・衛星リモートセンシング・数値実験を用いて,基礎生産量を増加・維持する中規模渦の役割を明らかにした.陸棚斜面域では,渦による表層への栄養塩供給(ボトムアップ)と高基礎生産水塊の外洋への輸送(Shelf-basin exchange)が重要であることが明らかになった(Mizobata et al., 2002, Progress in Oceanography; Mizobata and Saitoh, 2004, Journal of Marine Science; Mizobata et al., 2006, Journal of Geophysical Research-Oceans; Mizobata et al., 2008; Deep Sea Research Ⅱ).
 




  [IARC-JAXA北極圏研究プロジェクト]
西部北極海における海氷ー海洋循環モデルIARC-Coupled Ice-Ocean Modelの改良
(外部サイトへ)


 国際北極圏研究センターで開発されたIARC-Coupled Ice-Ocean Model (CIOM)の海氷分布再現性について改良を行った(Jin et al., 2008, AOS; Wang et al., 2009a, CJPS; Wang et al., 2009b, CJPS).→再現結果のアニメーション
 



マイクロ波センサーSSM-Iによる海氷面積とCIOMにより再現された海氷面積の時系列(2002年)


  [IARC-JAXA北極圏研究プロジェクト/科研費]
ベーリング海峡から北極海への流量・熱フラックスの推定


 西部北極海に流入する太平洋水由来の熱流量を,衛星データ(海面高度・風速・水温)から推定する方法を確立した.具体的には,順圧流速・傾圧第一モードの構造および水温鉛直プロファイルの推定を,上記衛星データから可能にした(Mizobata et al., 2010, Journal of Oceanography).
バロー峡谷における流量・熱フラックスの推定
 海氷が激減している北極海カナダ海盆へバロー峡谷を介して流入する,太平洋水の流量および熱流量を推定する方法を確立する.
 



複数衛星データを併用したベーリング海峡熱フラックス推定のイメージ