6.世界の英語発音

ここまではアメリカ英語の標準的な発音をモデルとして解説してきましたが、「所変われば音変わる」で、世界中で英語を母語、すなわち生まれて最初に学ぶ言語とする人々の発音にも、大きな違いがあります。日本でも関西弁や東北弁など発音に違いがあるように、同じ国でも地域が変われば発音も違ってきます。たとえばアメリカ英語を例にとると、南部の諸州で話される英語の発音は、いわゆる標準的な、テレビのアナウンサーが使う発音とは大きく違います。イギリス英語は、もちろんアメリカ英語と発音が違うのですが、これまたイギリスの中でも、ロンドンの下町に住む人々と、貴族達の発音は違いますし、イングランドとスコットランド、アイルランドの発音もこれまた大違いです。カナダやオーストラリア、ニュージーランドなどの英語もまたそれなりの特徴を持っています。

自分がお手本にする発音は、どうしてもどれか一つということになるので、日本の皆さんはとりあえずアメリカ英語の標準的な発音をモデルにしておけば無難でしょうが、世界の7つの海ををまたにかけて活躍する船舶職員は、港々で異なる英語にさらされることになります。さらに英語を母語としない人々の英語には、程度の差はあれかならず母語の影響によるなまりがあります。船に長く乗っていると、VHFの無線から聞こえてくる英語のなまりを聞いただけで、相手の国籍が分かるようになるそうです。船上で耳にする英語は、むしろ何らかのなまりのある英語だと思っておいてもいいぐらいです。こういうわけで、この章では、さまざまな英語の発音に慣れることを目標にします。

このセクションではSMCPに準拠した7つのフレーズを、アメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリアの英語話者と、ざまざまな国の話し手が発音したものをまとめてあります。この録音には、SMCPの生みの親、Peter Trenkner 博士にも協力してもらいました。

SMCPが作られた背景には、英語による伝達がうまくいかずに起きる事故が後を絶たない不幸な事実があります。このセクションの英語を聞いてもらえば、その理由の一端がよくわかっていただけるはずです。非英語話者はなまりが強くてわからない、英語母語話者は早口すぎて(上手すぎて)わからない、ということがよくあるのです。自分と同じ母語のなまりが一番わかりやすいのは当然ですが、残念なことにそんな人とは母語で話せばよいので、ちっともありがたくありません。

とにかく大切なことは、

ゆっくり・はっきりと話す

メッセージがつたわるまであきらめない

の2点です。しばしば上手に英語をしゃべろうとするあまり、早口になってしまうひとがいますが、とくに無線でのコミュニケーションに早口は禁物です。SMCPの生みの親であるTrenkner博士 に敬意を表し、彼の発音をまず最初に挙げておきますが(彼自身は旧東ドイツ生まれです)、非常にゆっくりと読んでいます。彼いわく、「無線ではこれぐらいの速度で話すべきだ」とのことでした。

 

1.英語母語話者の発音 

まず英語を母語とする、イギリス・オーストラリア・カナダの発音をアメリカ英語と対比して聞き比べてみましょう。各国の英語発音に違いがあるといっても、その大部分は母音の発音で、子音に関しては、母音の後の r を発音するかどうかを除いて大した違いはありません。

短い"O"

まず短い"o"の母音を以下の例文4の knot で聞き比べてみましょう。アメリカ英語やカナダ英語ではかなり大きく口を開けた日本語の「ア」に近い音ですが、イギリスやオーストラリアでは唇の丸めが強い「オ」です。

AFT & FAST

aft や fast など一部の単語では、アメリカやカナダ英語で短い "a"と読まれるのに大して、イギリスやオーストラリア英語では、father などの「アー」が使われます。例文2の aft station や make fast で聞き比べてください。

母音の後の"r"

cargo, starboard, water などの単語において、アメリカやカナダ英語では "r" が発音されますが、イギリスやオーストラリアでは発音されません。このあたりにも注意して聞いてみましょう。

 

2.非英語話者の英語

これはもう千差万別です。実際に聞いてもらうしかありませんが、どの国の発話者にも母国語の影響が見られます。とくに早口でしゃべる人は、わかりにくいと感じるはずです。くれぐれも早口には注意してください。

最初のフレーズでは自分の出身国名とどこから来たかを読んでもらっています。

また最後のフレーズでは自分の母親の名前を船名として使い、これをアルファベットで綴っています。

録音してもらったフレーズは以下の7つです。

 

1. My flag state is X. My last port of call was Y. My cargo is crude oil. 

2. Aft station, aft station, this is bridge. Make fast the tug on the starboard quarter.

3. The pilot boat is approaching. Rig the pilot ladder 1 meter above water.  

4. My present course is 135 degrees. My speed is 15 knots. 

5. The CPA of the vessel 30 degrees on our port bow is 3 nautical miles, the TCPA is 13 minutes. 

6. We will use the starboard anchor and put 7 shackles in the water.

7. Mayday, Mayday, Mayday. This is motor vessel X. 

    Our present position is 090 (zero nine zero) degrees from the Bravo Buoy, distance 5 cables. 

    I am on fire after explosion. I am sinking.

 

各国の話手の文の番号をクリックすると、録音が聞こえます。

  1 2 3 4 5 6 7
Trenkner 1 2 3 4 5 6 7
アメリカ1 1 2 3 4 5 6 7
アメリカ2 1 2 3 4 5 6 7
アメリカ3 1 2 3 4 5 6 7
イギリス 1 2 3 4 5 6 7
 オーストラリア 1 2 3 4 5 6 7
カナダ1 1 2 3 4 5 6 7
カナダ2 1 2 3 4 5 6 7
日本 1 2 3 4 5 6 7
中国 1 2 3 4 5 6 7
韓国 1 2 3 4 5 6 7
ベトナム 1 2 3 4 5 6 7
ロシア1 1 2 3 4 5 6 7
ロシア2 1 2 3 4 5 6 7
スペイン1 1 2 3 4 5 6 7
スペイン2 1 2 3 4 5 6 7
スペイン3 1 2 3 4 5 6 7
トルコ1 1 2 3 4 5 6 7
トルコ2 1 2 3 4 5 6 7
トルコ3 1 2 3 4 5 6 7
ルーマニア 1 2 3 4 5 6 7
ウクライナ 1 2 3 4 5 6 7
クロアチア1 1 2 3 4 5 6 7
クロアチア2 1 2 3 4 5 6 7
クロアチア3 1 2 3 4 5 6 7
エジプト 1 2 3 4 5 6 7