「黒潮フロントが自励的に励起する近慣性波」という論文の掲載が決定しました。

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「黒潮フロントが自励的に励起する近慣性波: Spontaneous generation of near-inertial waves by the Kuroshio Front」という論文が、米国気象学会(AMS)出版のJournal of Physical Oceanographyに受理され掲載が決定しました。近慣性波は、主に風がつくることが知られています。しかし、強い傾圧フロントである黒潮で観測を継続的に行ってきた結果、黒潮の傾斜する密度躍層では大凡常に流速が内部波の特徴である帯状の構造をとること、乱流が周辺のそれとくらべて10-100倍程度大きい事が判りました。これらの流速の帯状構造が、黒潮自体が内部波を生成して生じているという仮説を立て、その仮説を検証するために、PSOMという非静水圧モデルを用いて黒潮の数値実験を行いました。実験の結果、黒潮が大きく蛇行する時、蛇行の峰や谷から大きな振幅を保った近慣性内部波が生成される事を突き止めました。モデルとはいえ、流れの強い中で正確に内部波のエネルギーを定量するのは、ドップラー効果によって非常に困難になります。このため、1ケース毎の数値実験毎に800万個のラグランジュ流粒子を放出し、より正確な内部波のエネルギーを定量したところ、黒潮の様な強いフロントが、非常に大きな内部波の源である可能性が示されました。全球規模の話をすれば、海洋の風成循環は、約1Tワットの風による仕事率で駆動されています。この研究では、何の海面からの風等の強制力を与えていないのに、海流のもつエネルギーが内部波に転換されるわけですから、海流から発生した内部波がより細かいスケールの乱流に砕ければ、このメカニズムは風成循環のエネルギーを散逸する主要なメカニズムになり得ます。しかしながら、本研究のモデル中で黒潮から生成した近慣性波の9割近くは、散逸する事無く黒潮に再び吸収され海流→近慣性内部波→海流というエネルギーの再分配が起こっている事が判りました。これが実際の海洋でのエネルギーフローを表すとすれば、このメカニズムは、風成循環の主要な散逸メカニズムでは無い事になります。この論文は紆余曲折を経て5年をかけて、投稿先を変え、その構成を変え内容すらも大きく変えながら、ようやく掲載されるに至りました。途中何度も挫けそうになりましたが、共著の皆さんの御陰で、あきらめず、論文を直すたびに、厳しい査読に真剣に向き合う度に、その内容が「真実」に近づいたのではないかと実感できる体験をしました。 果たして私の出した結果は「真実」を表しているのでしょうか。まだまだ観測や数値モデルを用いた研究が必要です。