国立大学法人 東京海洋大学 海洋科学部 食品生産科学科

これからの水産加工利用研究機関の役割 についての研究室の考え方

今後の研究方針

水産加工利用の背景

 世界の漁獲生産量は2000年に1億4千万トンを超えてから,頭打ち状態が続いている。その中で,満限利用や過剰漁獲されている資源の割合は70%に達し,世界人口の増加速度を考え併せると,食糧資源としての水産物はいずれ枯渇することが憂慮される。世界で漁獲される水産物の30%は,漁獲現場でby-catchのため投棄されるか,鮮度管理不備のため腐らせて利用されていないと言われている。本問題を解決するためには,未利用資源の開発・有効利用並びに廃棄されている水産資源の再利用・有効利用が必須である。

日本の水産事情

 次に,日本の水産事情に目を向けて見よう。日本国内における食用魚介類の年間消費量は800万トン台で,この10年間はわずかな減少傾向にある。国内生産量も減少を続け,食用魚介類の自給率が50%を切るのは時間の問題であろう。国民1人当たり1年間の平均消費量は,食用魚介類の国内消費仕向け量を日本の人口で割って得られ,約70 kg と計算される。しかし,食用魚介類の1人1年間当たり供給純食料量は,3540 kg である。この二つの数字から,頭部,内臓,皮,骨をはじめとした残滓が水揚げ量の約50%に達していることが読み取れる。日本においてもこのような莫大な加工残滓・未利用部の有効利用,高付加価値化が火急の課題となっている。

食品廃棄物

 日本における廃棄物の排出は,一般家庭と事業所から発生する一般廃棄物が5千万トン以上,産業廃棄物は5億トン以上である。食品廃棄物の排出量は一般廃棄物の約30%を占め,廃棄物問題における位置づけは小さくない。政府は,食品製造過程で大量に発生する代品廃棄物,食品の売れ残りや食べ残しの発生を抑制し,減量化させ,さらに飼料や肥料の原料として再利用する政策を進めている。 2000年に制定されたいわゆる食品リサイクル法により,製造・流通・外食などを含めた食品関連事業者による食品循環資源の再生利用が促進されている。

タンパク質源としての水産物

 廃棄物問題はさておき,日本人にとって水産物は相変わらず重要な動物タンパク質の供給源である。この10年間以上,動物タンパク質の約40%を魚介類が供給している。日本人の魚離れが問題視されるようになってからかなりの時聞か経過しているにも係らず,そのような傾向は認められないし,動物性タンパク質供給源にこの10年間大きな変動は見られない。

水産加工品の現状

 一方,水産加工品の生産量は,ほとんどの品目で減少する傾向にある。特に水産練り製品の生産量は,最盛時の半分以下にまで落ち込み,練り製品業界は現在大きな曲がり角に来ていると判断せざるを得ない状況である。日本人の魚介類消費量がここ約10年間あまり変動していない。にもかかわらず,水産加工品の生産量が減少しているのは,魚介類を水産加工品としてではなく生鮮食品として消費する傾向が増えているためてあろう。

 

これからの水産利用研究機関の役割

 時代とともに社会の状況が変わり,それに伴って水産業,水産学も変化していることを考慮しなくてはならない。水産学におけるこれまでの加工利用の分野は,タンパク質,脂質・糖質,酵素,生理活性物質,鮮度保持,食品衛生などに細分化・専門化され,加工利用に関する諸問題を大所高所から検討したり,研究したりする傾向が薄れつつある。現在のような細分化された学問体系の下で,水産物の加工利用のようなそもそも泥臭い,魚臭い分野を横断的に教育・研究することが少なくなっている。実学としての水産学を,加工利用の原点に戻って考え直す時期に来ているのではないだろうか。

 日本政府は,水産加工業及び水産流通業の健全な発展を目指した施策を提言・実施しようとしている。水産加工・流通業が,漁業と相互に連携しつつ,国民の需要に即した水産物を供給するため,HACCPシステムの導入による衛生・品質管理体制の強化,地域水産加工品のブランド化を図るとともに,産地市場の再編整理を推進している。このほか,水産加工残滓などのリサイクルを促進し環境負荷への低減を図っている。このような取り組みに対する水産学あるいは水産加工利用学の役割は何であろうか。

 

産業基盤か弱く,規模が小さい水産物の利用加工の分野において,上記の施策なりを個々の企業や研究室が独自でなかなか遂行・実現できるものではない。

 

 多種多様の問題が原料から加工・流通に至るまでに存在しその中でトレーサビリティーや遺伝子関連などの新しい学問からの検討も必要となる。

 

 これら問題を解決するには,幅広い見識を持ち,最先端までの各種技術を駆使できる人々の横断的な関与が不可欠であろう。

 

 地場産業などから発生する加工利用に関する各種問題を汲み上げ,水産学を通して得られる解決策を地場産業なりにフィードバックできるようになれば,水産加工業の活性化に結びつき,ひいては国の産業の発展をもたらすという流れになるであろう。ここに水産加工利用研究機関が果たすべき大きな課題があるのではないだろうか。

水産加工利用研究機関の役割