制御システム設計論
講義5 状態観測
システムの状態方程式が と書かれたとき、物理的に測定できるのがyです。しかし、これまでの状態フィードバック制御を行うためには、ない状態のすべてが分かる必要があります。従って、内部状態を推定しようとするのが当然の考え方です。制御理論では、この内部状態(つまり状態ベクトル)を推定するための方法がすでにまとまっているので、これを紹介します。
状態推定の目的は、状態ベクトルのすべての要素の値が求まることから、推定に関しては、
1)
全状態推定
2)
部分状態推定
に分けられる。前者は言葉のとおり、状態ベクトルのすべての要素の値を推定によっと求める。後者は、一部だけを求めることです、なぜなら、折角出力yが物理的に測定できるので、その中に含まれていない状態だけを推定すればよい。
まず、推定に関して考え方を説明します。一番簡単なのが、システムのコピーをコンピュータ内で作ります(つまりシミュレーション)。なぜなら、現実のシステムは物理的な原因で、状態の一部が計測できないが、システムの運動方程式が分かりますので、そのままコンピュータ内でシステムの状態を計算すればいい。イメージ的には、以下のようなものとなる
でも、問題あり: 初期値も非可測ですので、同じ状態で稼動できない。
どのようなケースが旨くいくか?どのようなケースが旨くいかないか?
ここで とする。このとき、に注意。
zが満たす方程式は となることが確かめられる。よって、
Aが安定な行列、即ち制御対象が安定なら、―――>
Aが不安定な行列、即ち制御対象が不安定なら、―――> 、推定失敗
これを頭にいれて、これからの説明を聞きましょう。
A) 全状態推定(観測)
問題: システムに対して、状態ベクトルxの推定値zを求めよ。
解: とする、但しLは設計するものです。
よって、推定誤差を とすると、以下の式が成り立つ。
これは、ごさベクトルeに関する状態方程式で、eの初期値はゼロでないが、時間と共にeがゼロに収束するためには、A+LCの固有値が安定であるようにLを設計すればよい。
B 部分状態推定(観測)
制御対象が
の場合を考える。ここで、C行列の形に合わせて、状態ベクトルものように二つの部分ベクトルに分ける。このとき、状態方程式を細かくかくと
の推定値をとすると、
@ が安定なら、は以下の微分方程式の解としてもとめる
A が不安定なら、を推定する変わりに、を推定する。ただしzが安定なシステムの応答となるようにLを求める。具体的には、このように定義されるzは
よって、の固有値が安定であるようにLを求めば、以上の式からといたz(ベクトル)はの推定値になる。
C 最適推定
入力信号に統計的性質を持つ雑音が加わり、かつ出力信号に同様の観測雑音が含まれているような場合にはカルマン・フィルタ型観測器が用いられる。この場合のシステムは次式で表現される。
ここでは入力に加わる雑音、は観測時に加わる雑音で、それぞれ白色雑音である。したがって自己相関および両者間の相互相関がなく、一定のパワースペクトルを持ち、次のような性質で表現される。
期待値(平均):
自己創刊:
時間区間の間に上記システムから得られた観測データから時刻における状態の推定値を求めるには次の評価関数を最小にするようにする。
これに対して、状態観測の式は
Keは、レギュレータ問題の場合と同様の手法を用いて最適フィルタ・ゲインとしてを求める。すなわち次のリカッチ型微分方程式
ただし
のの正定対称な解(これを推定誤差共分散という)より
が得られる。
観測器はブロック図のような形で実現される。
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