在学の皆さんへの更新履歴
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在学生の皆さんへ

  次のパラグラフからのテキストを書いてなんとなんと!!5年が経ちました。いま2011年6月です。 この5年間で超電導の応用研究は大躍進をしました。大学院の学生さんや卒業して高専の教員になって研究を続けてくれたOB諸君、 元気のいい4年生にも恵まれて、超電導モータのプロトタイプのコアおよび周辺技術で多くの成果をあげました。 NEDOのエネルギー利用合理化戦略開発プログラムでは、川崎重工業、海上技術安全研究所との共同研究体のもと、 超電導の線材を巻線するコイル化技術に集中しました。2010年には、メガワット級超電導モータで国内最高出力を達成しました (http://www.khi.co.jp/news/detail/20101101_1.html)。

  また、従来から継続してきたバルク高温超電導体の研究では、新たな磁束ピン止め効果を生成する磁性粒子を見つけました。 これは2009年の学会誌のハイライトになりました(http://iopscience.iop.org/0953-2048/page/Highlights%20of%202009)。 現在、これにともなって新しい磁石の開発を進めています。

  材料と機器開発の研究は車の両輪です。どんな機械システムも構成要素た部品の研究開発が重要です。 また部材を寄せ集めただけでも完成しません。今年、2011年は超電導、超伝導発見から100年の年にあたります。 すでに医療や加速器では実用化が進み、これから磁石の信頼性の向上とともに動力や推進システムへの応用が 進むと期待されます。研究室はこれに向かって一緒に歩んでくれる人を常に求めています。2011-水無月

  ここからは5年前に書いたテキストです。読んでみてください。いま、研究グループは、超電導モータを 発電機として開発して自然エネルギーを利用した発電、海流や潮流発電に利用できないか検討を重ねています。。 また、ひろく省エネルギーの究極材料としての利用の方法や機器開発に挑戦していきます。

  :【5年前の徒然】

  この文章をアメリカのメリーランド州のボルチモアに近いアナポリスという小さな街で書いています。 私がこの地に訪れているのは、冷凍機の国際会議に出席するためです。 超電導の研究を行っている私がなぜ冷凍機の会議に出席するのか不思議に思った方もいるのではないでしょうか。 まずはその理由をお話しましょう。

  私の研究のひとつのテーマとして超電導の応用があります。 室温での超電導がまだ実現しない段階では、現在の超電導を身近に使いこなすことができるかどうかは、液体窒素温度といわれる77 K(マイナス196 ℃)またはそれより低温に冷却するための装置をいかに低コストで高効率に実装できるか、すなわち冷凍機にかかっているといっても過言ではないと思います。 その冷凍機すなわちクライオクーラーの国際会議(ICC14)が、このアナポリスで行われています。 日本からの出席を交えて300人ほどの出席者でしょうか。 ここの冷凍機は、みなさんの家にある冷蔵庫や自動車のカーエアコンのような温度ではなく、絶対温度で70 K、40 K、中には絶対零度まで千分の一度というミリケルビンまでを対象としており、宇宙・航空、気象観測向け、マイクロマシン、外科手術向けを含めた大小さまざまな冷却装置についての研究発表がされています。 冷凍機技術はいまや超電導応用技術だけでなく赤外線センサなどの動作や感度を高めるためにも欠くことのできないものになっています。 気がつくのは米国の研究・技術者の層の厚さです。 これには国の事情もありますが、日本でも未来のエネルギー、宇宙、航空、海洋にかかわるこのようなサイエンスとテクノロジーに多くの若い人たちが興味をもってほしいと思います。

  超電導は強力な磁場を作り出すことができます。 その磁場を使うだけではなく、フレミングの法則やローレンツの法則などで知られるように大きな電磁力を生みます。 わが国では、リニアモーターカーだけではなく、近年になって医療診断用のMRIに広く利用されていることは知られてきましたが、まだ実社会で十分利用されているとは言えません。 欧米をはじめ日本でも国が超電導の技術と予算をかなりの程度牽引しており、連動して発展してきた冷凍機・低温技術は航空・宇宙・ロケット・医療技術などに大きく貢献しています。 また将来の水素エネルギーの利用にも超電導や低温の技術が直接・間接に貢献することは間違いないでしょう。 液体水素はどのくらい冷たい液体なのか調べてみてください。そして水素燃料電池と超電導モータの組み合わせが新しいEV、電気自動車を生み出すかもしれません。

  さて、冷凍機の内部に蓄冷材として磁性体が使われていることを知っていますか? 冷凍機の性能を大きく決めるひとつの要素はこの磁性材料の比熱がどのような温度でどのような値で変化するかです。 このように先端技術は、その技術に限ったものではなく、一見まったく異なっているように見える別の先端技術、特に材料技術と密接に結びついています。 新しい技術と機器は、既成の工学や科学の領域からではなく、幅広い視野、とくに材料技術から生まれてきます。

  超電導材料だけでなく、蓄冷材のもとになる磁性体、また、われわれ生体の主な構成元素を組成とする有機材料の中には、私たちの実生活に役立つ多彩な機能を提供する"材料"となるものが数多くあり、まだ発見されていない物質や機能もたくさんあります。 その性能や機能がどこからくるのかは物理学が決めています。 この研究室では新しい材料、既存の材料の性能向上と機器への実装応用と試作までを物理学を応用する物理工学にもとづいて新しい発想にもとづいて行います。 これをシステム物理工学と呼んでいます。 すぐに売れる製品は企業が開発すればよいのであり、大学はその一歩も二歩も先を開拓して科学技術と産業の未来を先導する義務があります。 産業界との連携も目の前の事業を行うのではなく、共同の研究開発などを通じて新しい概念、新しい材料、新しい機器を創出しながら、学部や大学院における人材の育成と社会へ輩出と成果の還元を行うことが使命なのです。

  現在の研究室では、有機物質を応用したバイオセンサや電子デバイス、近赤外線センサなどの光機能デバイス、実用化が展開しつつある超電導材料のパワー応用としての電動機、風力などの自然の力を利用した発電機、電力を貯蔵する蓄電などの機器開発を軸に、地球と人類の生活の共存と安全、安心な社会の構築に役立つ新しい推進システムの開発、センシング素子開発、医用・環境機器の研究と必要な新素材の開発をめざしています。 そして海洋・海中開発、また宇宙・スペース開発に役立てることもひとつの目標にしています。 先進の機器システムの性能を決定するのは総じて材料とくに電気・電子材料の性能なのです。 みなさんの持てる素養から数多くのアイデアが生み出されることを期待しています。 これからの材料はひとつの物質で多面的な機能をもつ必要があります。 電子的に優れ、かつ機械的強度にも優れたといったマルチファンクション(多機能)が要求されます。 このような物質材料のインテリジェント化も重要なテーマです。

  最後にひとつ、超電導と超伝導が世の中では使われています。 超電導と超伝導を知らずに超電導や超伝導を使いこなすことはできません。 電気抵抗がゼロの電線というだけでは機器開発は成功しないのです。 そこが難しさであり材料物理工学(システム物理工学)の醍醐味です。 そして物理学の素養を背景に材料、機械、電気・電子の諸工学に渡る幅広い知見の統合運用ができるゼネラリストになって欲しいと願っています。 スタッフや研究室の先輩はそのための努力を惜しみません。

2006.06.16アナポリスに於いて 和泉