溝端 浩平 / Kohei Mizobata
Satellite Remote Sensing

衛星リモートセンシングによる海洋循環と熱輸送の理解

衛星リモートセンシングは、広域かつ継続的に海洋を観測できる手法として、海洋循環や熱輸送の理解に不可欠です。 ベーリング海・北極海における研究を通じて、衛星データから海洋の物理場を推定する手法を発展させ、 その知見を現在の南極海研究へと展開しています。

Satellite Altimetry Sea Surface Temperature Ocean Heat Content Dynamic Ocean Topography Sea Ice Heat Transport

研究の流れ

2008年の研究では、衛星マルチセンサーを用いて 中規模渦 と一次生産の関係を解析しました。

2010年には、海面高度と風データからベーリング海峡の熱輸送推定へ展開しました。

2012年には、SST を用いた表層混合層と貯熱量推定の限界から、水平熱輸送の重要性が明らかになりました。

2016年には、海氷域でも 月平均海面力学高度(DOT) を推定する手法を確立し、現在の南極海研究へとつながっています。

ページ構成

1. ベーリング海における渦活動と一次生産

2008年の研究では、衛星高度計と海色データを用いて、ベーリング海東部陸棚斜面における 中規模渦と一次生産の関係を調べました。渦場の変動が大きい海域では、 大陸棚斜面付近で高い一次生産が維持されることが示され、中規模渦による栄養塩の大陸棚斜面への輸送と、高基礎生産水塊の沖合への輸送の重要性を議論しました。

Mizobata et al. 2008 figure of summer primary production in the eastern Bering Sea
ベーリング海東部における夏季一次生産の年々変動。 中規模渦が発達する大陸棚斜面に沿って高い一次生産が維持される様子を示す。 Adapted from Mizobata et al. (2008).
Mizobata et al. (2008) K. Mizobata, S.-I. Saitoh, and J. Wang.
Interannual variability of summer biochemical enhancement in relation to mesoscale eddies at the shelf break in the vicinity of the Pribilof Islands, Bering Sea.
Deep-Sea Research II, 55, 1717–1728.
https://doi.org/10.1016/j.dsr2.2008.03.002

2. ベーリング海峡を通過する熱輸送の推定

2010年の研究では、海面高度差、風データ、および現場観測を組み合わせることで、 ベーリング海峡東部を通過する北向き熱輸送を推定しました。 体積輸送と水温構造の双方を考慮することで、北極海へ流入する熱の年々変動を議論しました。

Mizobata et al. (2010)
K. Mizobata, K. Shimada, R. Woodgate, S.-I. Saitoh, and J. Wang.
Estimation of Heat Flux through the Eastern Bering Strait.
Journal of Oceanography, 66, 405–424.
https://doi.org/10.1007/s10872-010-0035-7

3. 表層混合層と海洋貯熱量の推定、そしてその限界

2012年の研究では、AMSR-E 海面水温と大気海洋間熱収支から、北極海における表層混合層深度と 海洋貯熱量を推定しました。これは、海氷形成を抑制する表層の熱蓄積を広域的に捉えようとした試みでした。

Mizobata et al. 2012 estimated ocean heat content in surface mixed layer
AMSR-E SST と NCEP/NCAR heat budget から推定された表層混合層内の海洋貯熱量。 東西非一様な熱蓄積の空間構造が見られる。Adapted from Mizobata and Shimada (2012).
Mizobata et al. 2012 SST trend and subsurface section near ice edge
氷縁域における SST trend と断面構造。1次元熱収支の仮定では説明できない水平熱フラックスの存在を示唆し、 現場観測もそれを支持した。Adapted from Mizobata and Shimada (2012).
本研究では、大気海洋間の 1次元熱収支だけで表層混合層の熱量変動を説明できると仮定していました。 しかし、氷縁域では「負の混合層深度」という物理的に存在しない値が現れ、水平熱フラックスが無視できないことが明らかになりました。 この結果は、結氷期の北極海では、海氷縁辺域における水平熱輸送が海氷面積拡大の停滞をもたらすことを示唆しています。
Mizobata and Shimada (2012) K. Mizobata and K. Shimada.
East–west asymmetry in surface mixed layer and ocean heat content in the Pacific sector of the Arctic Ocean derived from AMSR-E sea surface temperature.
Deep-Sea Research II, 77–80, 62–69.
https://doi.org/10.1016/j.dsr2.2012.04.005

4. 海氷域での monthly DOT 推定と海洋循環の復元

従来の衛星高度計では、海氷に覆われた海域は通常 No data となり、 冬季の海洋循環を広域的に調べることは困難でした。 2016年の研究では、海氷厚推定に用いられる CryoSat-2/SIRAL の観測データから海面力学高度(DOT)を導出し、 海氷の有無に依存しない 月平均 DOT 推定手法を確立しました。これにより通年で海氷域においても地衡流を推定できるようになりました。

Mizobata et al. 2016 figure of sea ice drift and CryoSat-2 derived dynamic ocean topography
海氷分布・海氷流動と、CryoSat-2/SIRAL から導出した monthly DOT。 海氷に覆われた海域でも月ごとの海洋循環を復元できることを示している。 Adapted from Mizobata et al. (2016).
Mizobata et al. (2016) K. Mizobata, E. Watanabe, and N. Kimura.
Wintertime variability of the Beaufort gyre in the Arctic Ocean derived from CryoSat-2/SIRAL observations.
Journal of Geophysical Research: Oceans, 121, 1685–1699.
https://doi.org/10.1002/2015JC011218