東南極における海洋熱輸送とその変動機構
南極氷床の融解は、沖合の暖水が陸棚へ輸送されることによって引き起こされます。 本ページでは、東南極を対象として、暖水輸送の存在、海底地形と循環による輸送メカニズム、 さらに大気場変動に応答した時間変動まで、衛星観測・現場観測・数値解析を組み合わせて明らかにしてきた研究をまとめています。
研究の概要
東南極沿岸では、沖合に存在する比較的暖かい水塊がどのように陸棚へ到達し、さらに棚氷下へ輸送されるのかが重要な課題です。 とくに Totten Ice Shelf 周辺では、暖水の流入が棚氷底面融解を通じて氷床変動に強く関わることが示されています。
ここでは、まず観測に基づいて暖水輸送の存在を示し、次に海底地形と循環構造が輸送をどのように制御するかを整理し、 最後に南半球環状モード(SAM)に応答した沿岸循環の変動を通じて、海洋熱輸送の時間変動を位置づけます。
1. 観測に基づく暖水輸送
衛星高度計による海面力学高度と現場観測を組み合わせることで、東南極沿岸では沖合から陸棚方向へ向かう循環構造が存在し、 暖水が陸棚側へ輸送されていることが示されました。 平面図と断面図を合わせて見ることで、表層の循環場と深層の水温構造が対応していることがわかります。
The Cyclonic Eddy Train in the Indian Ocean Sector of the Southern Ocean as Revealed by Satellite Radar Altimeters and In Situ Measurements.
Journal of Geophysical Research: Oceans, 125, e2019JC015994.
https://doi.org/10.1029/2019JC015994
2. 棚氷へ向かう暖水輸送の仕組み
暖水輸送は単純な一様流ではなく、棚斜面の深い shelf break、陸棚上の Sabrina Depression、 そして Totten Troughs のような深い海底地形に強く制御されています。 さらに、cyclonic eddy train や陸棚上の循環が暖水を depression の縁に沿って運び、棚氷下へ到達させます。
On-shelf circulation of warm water toward the Totten Ice Shelf in East Antarctica.
Nature Communications, 14, 4955.
https://doi.org/10.1038/s41467-023-39764-z
3. 大気場変動と沿岸循環の応答
これらの沿岸循環は定常ではなく、南半球環状モード(SAM)に応答して変動します。 海面気圧場と海面力学高度の SVD 解析により、SAM の正の位相に対応して沿岸の海面高度が深まり、 東南極沿岸の時計回り循環が強化されることが示されました。 これは極向きの海洋熱輸送が増加しうることを意味します。
Ocean Response Along the East Antarctic Coastal Margin to the Southern Annular Mode.
Geophysical Research Letters, 52, e2024GL112914.
https://doi.org/10.1029/2024GL112914
4. 東南極全体でみた広域的な輸送像
東南極では、暖水輸送や沿岸循環は個別の海域で独立しているのではなく、棚斜面流、再循環、渦列を介して広域的に結びついています。 そのため、Totten 周辺だけでなく、Prydz Bay や Vincennes Bay などを含めた東南極全体の接続関係として理解することが重要です。
Modeling the egg and larval transport pathways of the Antarctic toothfish (Dissostichus mawsoni) in the East Antarctic region: New insights into successful transport connections.
Fisheries Oceanography, 31, 19–39.
https://doi.org/10.1111/fog.12560