溝端 浩平 / Kohei Mizobata
Ocean Remote Sensing: Practical Data Analysis 01

MODIS SST4 と AMSR2/GHRSST SST の簡易合成

赤外センサーによる高解像度 SST と、マイクロ波放射計による雲に強い SST を組み合わせ、 黒潮域の SST gap filling を試みます。この解析の目的は、きれいな図を作ることではなく、 異なる衛星 SST を合成するときに何を確認しなければならないかを理解することです。

Aqua/MODIS SST4AMSR2/GHRSST L2PSubskin SST Gap fillingBias correctionSource flagKuroshio

この解析の中心的な問い

MODIS の雲欠損を AMSR2 で埋めることはできる。しかし、それは「正しい高解像度 SST 場」を作ったことになるのか?

この問いを、観測点、再格子化、バイアス、RMSE、source flag、前線構造の観点から検討します。

データと前提

データ役割注意点
Aqua/MODIS L3 mapped SST4高解像度の赤外 SST。黒潮前線などの細かい構造を表現しやすい。雲で欠損する。ファイル名の DAY は daily product の意味であり、SST4 は 4 µm nighttime SST として扱う。
AMSR2/REMSS/GHRSST L2P subskin SST雲に強いマイクロ波 SST。MODIS 欠損域の一部を補完する候補。L2P swath なので、最初から格子化された画像ではない。単位は K なので ℃ に変換する。
対象日・海域2026年4月1日、黒潮域(120–160°E, 20–45°N)同日内の複数パスを用いるため、厳密な同時刻合成ではない。
この解析で作るものは GHRSST L4 や MUR の再現ではありません。教育用の簡易合成であり、 「何が埋まり、何が失われるか」を考えるための教材です。

解析フロー

Step 1

MODIS SST4 を読み込み、欠損を確認する

最初に Aqua/MODIS の L3 mapped SST4 を読み込みます。MODIS は高解像度で黒潮前線を見やすい一方、 雲による欠損が大きいことが分かります。欠損は単なる空白ではなく、後の解析結果にバイアスを与えうるため、 gap filling の前に必ず確認します。

run01_plot_MODIS_SST4_20260401.m
MODIS SST4 global
Fig. 1. 全球の MODIS SST4 quick-look。欠損域は白として表示する。
MODIS SST4 Kuroshio
Fig. 2. 黒潮域の MODIS SST4。高解像度だが、雲欠損が多い。
MODIS missing mask
Fig. 3. MODIS SST4 の欠損マスク。青は SST あり、白は欠損。AMSR2 で埋めたい対象は主に白い領域である。
Step 2

AMSR2/GHRSST L2P の各パスを確認する

AMSR2/GHRSST は L2P swath データであり、1ファイルが1本の軌道観測に対応します。 まず全パスを読み込み、黒潮域を観測しているパスを抽出します。ここではまだ合成せず、 どのパスがどの領域を観測しているかを確認します。

run02_check_AMSR2_swaths_20260401.m
AMSR2 swath coverage
Fig. 4. MODIS SST4 背景に AMSR2 swath を重ねた coverage 図。AMSR2 は MODIS 欠損域の一部をカバーできるが、完全には埋められない。
AMSR2 pass 02
AMSR2 pass 02。個別パス図では MODIS 背景を重ねず、AMSR2 の観測だけを表示する。
AMSR2 pass 03
AMSR2 pass 03。各パスには観測時刻差があるため、日単位の簡易合成であることに注意する。
AMSR2 pass 09
AMSR2 pass 09。スワス観測は点の集合であり、最初から gap-free 画像ではない。
AMSR2 pass 10
AMSR2 pass 10。AMSR2 は雲には強いが、雨・陸近傍・QC 条件で欠損する。
AMSR2 pass 11
AMSR2 pass 11。複数パスを合わせても、観測されない隙間は残る。
Step 3

AMSR2 を MODIS 格子へ載せ、合成前の診断を行う

Step 3 は合成ではありません。AMSR2 の swath 観測を MODIS の緯度経度格子に載せ、両者が重なる場所で MODIS − AMSR2 の差を評価します。これにより、AMSR2 をそのまま使うか、バイアス補正して使うかを判断します。

run03_regrid_AMSR2_to_MODIS_grid_20260401.m
maxDist_km の意味
maxDist_km = 20 は、最も近い AMSR2 実観測点から 20 km より遠い MODIS 格子点を NaN に戻すためのしきい値です。 これにより、観測されていないスワス間の隙間まで人工的に埋めることを防ぎます。
AMSR2 points
Fig. 5a. 再格子化に使った AMSR2 実観測点。
AMSR2 regridded
Fig. 5b. AMSR2 を MODIS 格子に内挿したもの。4 km 解像度の情報が増えたわけではない。
MODIS minus AMSR2
Fig. 5c. MODIS SST4 − AMSR2 SST。センサー差、時刻差、解像度差、前線域の代表性差が含まれる。
Difference histogram
Fig. 5d. 差のヒストグラム。平均バイアスと中央値バイアスを区別し、補正方法を選ぶ。
Step 4

MODIS 欠損域を AMSR2 で埋める

ここで初めて合成を行います。MODIS がある場所は MODIS を保持し、MODIS が欠損していて AMSR2 がある場所だけを AMSR2 で埋めます。さらに、Step 3 の重複域から求めた中央値バイアスを用いて、AMSR2 を MODIS 寄りに補正した合成場も作成します。

run04_make_MODIS_AMSR2_blended_SST_20260401.m
Original MODIS
Fig. 6a. 元の MODIS SST4。欠損域が広い。
AMSR2 on grid
Fig. 6b. MODIS 格子上の AMSR2 SST。実観測から離れた場所は NaN とする。
Simple blend
Fig. 6c. 単純合成。MODIS 欠損域だけ AMSR2 で埋める。
Bias corrected blend
Fig. 6d. バイアス補正合成。AMSR2 に中央値バイアスを足してから埋める。
Source mask
Fig. 6e. Source flag。青は元の MODIS、オレンジは AMSR2 補完、白は未補完。
Simple minus bias corrected
Fig. 6f. 単純合成とバイアス補正合成の差。一様バイアス補正なので、AMSR2 補完域を示す Fig. 6e とほぼ同じパターンになる。レポートでは原則 Fig. 6e を重視する。
Step 5

合成によって前線構造がどう変わったかを評価する

合成場がきれいに見えても、MODIS の 4 km 前線構造が復元されたわけではありません。 Step 5 では SST 勾配 |∇SST| を計算し、MODIS、AMSR2、simple blend、bias-corrected blend の前線強度を比較します。

run05_evaluate_blended_SST_fronts_20260401.m
確認する図勾配マップ、勾配ヒストグラム、緯度断面、source flag と断面位置。
重要な見方AMSR2 で埋めた領域では欠損は減るが、前線強度は弱くなりやすい。gap filling はデータ量を増やすが、情報量を同じだけ増やすわけではない。
Step 6

最終プロダクトとして整理する

最後に bias-corrected blend を簡易最終 SST として採用し、source flag と uncertainty proxy を保持します。 最終 SST だけを見せるのではなく、どのピクセルが MODIS 由来で、どのピクセルが AMSR2 補完かを必ず同時に示します。

run06_make_final_SST_product_20260401.m
出力意味
SST_finalbias-corrected blend を採用した最終 SST。
sourceFlag0 = no data, 1 = original MODIS, 2 = filled by AMSR2。
uncertainty_proxy教育用の簡易不確かさマップ。正式な誤差推定ではない。
grad_final最終 SST から計算した SST 勾配。

この解析で特に強調すること

  • AMSR2 で MODIS の欠損を埋めることはできるが、MODIS の 4 km 情報を復元しているわけではない。
  • AMSR2 を MODIS 格子へ内挿すると見た目は滑らかになるが、それは観測情報が増えたことを意味しない。
  • mean bias と median bias は異なる。外れ値がある場合、中央値の方が補正値として安定することがある。
  • source flag を保存しない合成 SST は危険である。最終図だけではデータ由来が分からない。
  • この簡易合成と GHRSST L4/MUR のような解析場は異なる。L4 ではより高度な QC、誤差重み、時空間内挿、背景場が用いられる。

課題

レポートでは、図を貼るだけでなく「その図から何が言えるか」「何が言えないか」を必ず記述すること。
  1. MODIS SST4 の欠損はどこに多いか。黒潮・黒潮続流の解析にどのような問題を生むか説明せよ。
  2. AMSR2 は MODIS 欠損域をどこまで補完できたか。Fig. 4 と Fig. 6e を用いて説明せよ。
  3. Fig. 5d の MODIS − AMSR2 のヒストグラムを解釈せよ。平均バイアスと中央値バイアスの違いは何か。補正にはどちらを使うべきか、自分の判断を述べよ。
  4. maxDist_km を 10, 20, 30, 50 km に変えた場合、AMSR2 補完範囲、バイアス、RMSE、最終図はどう変わると考えられるか。少なくとも2条件を比較せよ。
  5. use_quality_level_min を 5 から 4 に緩めた場合、coverage と信頼性はどのように変わるか考察せよ。
  6. 単純合成とバイアス補正合成の違いを説明せよ。今回の一様バイアス補正は十分か、それとも場所依存の補正が必要か。
  7. 合成 SST を用いて黒潮前線や MHW を解析する場合、どのような注意が必要か。source flag と SST 勾配の観点から述べよ。
  8. この簡易合成と GHRSST L4/MUR のような gap-free SST 解析場の違いを説明せよ。

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