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研究タイトル目次
  ➊ユニットクーラの冷却能力試験法の開発
  ➋穀物粉の凍結粉砕処理の影響:粒子特性の定量化
  ➌凍結保存中における包装容器内食品の乾燥に関する研究
  ➍環境負荷と品質を考慮したスルメイカの輸送形態の評価
  ➎Soret帯を利用した新しいマグロ赤身肉褐変度の測定法の開発
  ➏過冷却現象を利用した新しい食品加工法の開発
  ➐数値計算による凍結アジ解凍中の品質変化の予測
  ➑凍結装置の性能評価を可能とする標準模擬食品試料の開発
  ➒大温度差凍結システムの優位性に関する仮説と実証
  ➓プロペラファンの乱れを利用した伝熱促進
  ⓫氷スラリーを用いた高品質解凍法の開発
  ⓬パニール(南アジア特有のチーズ様食品)の冷凍保存法の開発
  ⓭凍結-保存-解凍による食品内部の微細構造の変化とマクロな品質特性の関係


Manabu Watanabe Group Research Theme 1
ユニットクーラの冷却能力試験法の開発


食品などの冷却や凍結保存を目的として、冷蔵倉庫は広汎に利用されている。冷蔵倉庫の場合、他の冷凍・空調機器とは違い、冷却器(ユニットクーラ)は倉庫の付帯設備として設置され、現場で初めてコンデンシングユニットと接続されることが一般的である。すなわち、冷蔵倉庫の熱設計に当たっては、倉庫の用途(熱負荷)に応じた冷凍能力を算出し、これに見合う冷却器と、それに適合するコンデンシングユニットを選定しなくてはならず、そのためには冷却器の熱交換性能が正確にわかっていることが望ましい。しかし、現在ユニットクーラの冷凍能力試験法として幾つかの方法がJISに規定されているが、どの方法においても測定誤差の混入や、測定に長時間を要するなどの原理的な欠点があり、正確な測定が成されているとは言い難い。
このため、製造メーカの公表データもあまり正確とは言い難いのが現状であり、完成した冷蔵倉庫において設計通りの冷凍能力が出なかったり、コンデンシングユニットが無理な運転を強いられて効率の低下や故障を招くなど、様々なトラブルの原因となっている。また、冷却器メーカでは、ユニットクーラの性能向上を目指して多大な努力が成されているが、正確な能力測定ができないため、効率的な製品開発の妨げともなっている。以上を踏まえて我々は、従来とは異なる試験原理に基づいて、ユニットクーラの冷凍能力を測定するための新しい方法を開発している。これまでに、常温域における試験原理の実証までは完了している。
本研究では、本測定法の実用化を目指した開発を行っている。具体的には、十分な精度を保証するための計測方法の確立、冷凍温度域への拡張、高湿度雰囲気での測定誤差を防ぐための潜熱を含めた測定法、などである。

【試験原理】
本研究で用いる試験原理について説明する。温度を一定に保った検査室内に、図1に示すような断熱されたダクトを置き、その両端に電気ヒータおよびクーラを設置する。そのダクト内に空気を流入させると、始めにヒータで加熱され、続いてクーラで冷却される。この時ダクトの流入温度と流出温度が同じであれば、ヒータが空気流に与えた熱量とクーラが奪った熱量は同じであると考えられるから、ヒータへの印加電力を測定すれば、それが即ちクーラの冷凍能力となる。
本試験原理の優れた点は、冷凍能力の誤差に関わる測定器が電力計のみであり、風速、冷媒流量、温度などの測定に伴う誤算が生じないため、測定精度が高いことである。また、ダクト内を流動する空気を加熱および冷却するため、空気と温冷熱源の温度差が大きく、原理的に定常に到達するのが速い。

【実験概要】
これまでの結果:実験では、本測定法による測定値が正しいかどうかを確認しなくてはならないため、クーラに実際の直膨式ではなく、ブラインを流動させて冷却を行った。このブラインの流量、冷却器出入口の温度差、比熱からブラインに与えられた熱量を算出し、これと本測定法による測定値を比較してその誤差を計測精度として評価する。試験装置の写真を右図に示す。常温域における実験では、最高で2%という高精度が、20分程度の測定時間で得られることが確認され、本測定原理の優位性が実証された。
以上を踏まえて現在は、氷点下条件での測定と、精度の向上を目指した実験を行っている。氷点下条件では、試験室の性能が大きく測定誤差に影響を及ぼすことが判ったため、試験室の改善を行い、また制御機器、計測機器についても再検討を行った結果、冷凍温度である-10℃において、±5%という測定精度が得られることが確認できた。
これについては、2012年秋の冷凍空調学会にて発表した。

Associate Professor comment:食品の冷凍には、必ず、冷凍機および関連する機械装置が必要です。そのため、初期の食品冷凍の研究は機械装置に関するものがほとんどでした。その技術は今や空調分野に受け継がれ、研究、開発が続けられています。一方で、食品冷凍の研究は、品質向上のために食品内部の微細構造を調べる、という方向性が主流になりました。ともすれば、機械については現在あるものを使うか、あるいは空調分野の技術を応用すれば事足りる、と思われてしまいがちですが、実は氷点下という条件、冷却速度、温度の変動や分布などの問題は、空調分野ではそれほど重要でないため研究が進んでいません。「本当に食品の品質を考えた冷凍装置」を実現するためには、やはり食品冷凍分野においても機械装置の研究が不可欠なのです。 本研究はその好例であり、クーラとコンデンシングユニットが別々に開発されること、また氷点下条件で測定しなくてはならないことは食品分野ならではの問題です。


Manabu Watanabe Group Research Theme 2
穀物粉の凍結粉砕処理の影響:粒子特性の定量化に関する研究
Effect of freeze grinding process on the grain powders: Characterization of particle properties


Grinding is generally part of a larger set of operations involved in the process of size reduction. In many food processes it is frequently necessary to reduce the size of solid materials. Especially, the grain need to be ground for making some food products, such as bread, cookie and noodles. At present, the study of grinding process focused on the improvement of energy efficiency and powder quality. Recently, they a new method applied that using a freeze grinding process, includes the freezing of grain with liquid nitrogen or using freezer prior to dry grinding. Freeze grinding is a good methods to maintain the powder quality, but few studies have been reported. After grinding, the food powders have some properties. In micro properties, particle has specific size, distribution and shape. In macro properties bulk powder has flowability bulk density and wall friction. When handling the bulk powders such as mixing, transport and storage, these are important factors. Especially, micro properties are most important factors due to they affect the macro properties of bulk powder. This study is to determine the effect of freeze grinding on grain powders and then investigate the micro and macro properties of grain powder using fractal analysis, measurement of powder flow, respectively.


Manabu Watanabe Group Research Theme 3
凍結保存中における包装容器内食品の乾燥に関する研究


冷凍食品において、乾燥は変色や触感の変化といった品質劣化の主要因である。この現象の対応策としてラッピング処理が行われているものの、包装された冷凍食品においても表面から乾燥が進行し、品質劣化を起こすことが問題となっている(下左写真のHotcake:Frost generated by preservation during 18 months (-18℃) :包装容器内で乾燥した食品の水分は霜として袋内に残る)。この現象は冷凍庫内の温度変動が原因であると考えられているが、一定期間でどの程度温度変動すれば乾燥量がどのくらいになるのかといった定量的な研究や乾燥量の予測に関する研究はほとんど報告されていない。そこで、温度変動に起因する包装容器内冷凍食品の乾燥現象をシミュレーションにより再現し、これをもとに温度変動と乾燥の定量的は関係を明らかにすることを目的に研究を行っている。このシミュレーションが完成すれば、凍結保存中における冷凍食品の品質劣化(乾燥)の推定や予防法を検討する上で強力なツールになると考えている。


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環境負荷と品質を考慮したスルメイカの輸送形態の評価


現代において温室効果ガスは様々な環境問題を引き起こす要因であり、温室効果ガスの削減は世界的にも非常に関心が高い。温室効果ガスの排出量を削減するため、環境負荷を評価する手法の一つにLCA(ライフサイクルアセスメント)がある。LCAを用いて活、冷凍、冷蔵がいずれも流通しているスルメイカの輸送について環境負荷を求める。また、輸送に応じたスルメイカの品質評価を行い、環境負荷と品質からスルメイカの輸送形態について評価する。


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Soret帯を利用した新しいマグロ赤身肉褐変度の測定法の開発


肉の赤色は肉に含まれるミオグロビン(Mb)に関係することはよく知られている。ミオグロビンが酸化反応によりメトミオグロビン(metMb)に変化し、色が赤色から褐色に変化する過程をメト化と呼ぶ。死後の筋肉では還元酵素が機能しなくなるため、メト化は不可逆な反応になる。メト化を表す指標としてメト化率が用いられている。メト化率が高いほどメト化が進行していることを表す。
従来のメト化率計算はQ帯(480-650nm)の吸収スペクトルが用いられているが、ポルフィリンは400nm付近でSoret帯と呼ばれる極めて強い吸収帯を持つ。Soret帯ピークのシフト率と従来法から計算したメト化率が高い相関性があり、Soret帯シフト率でのメト化率推算法が利用できることが示唆された。
本研究は実際の肉と試薬を利用し、Soret帯からの推算法と従来法の結果を比べ、式の正確性と利用性を検討する。


Manabu Watanabe Group Research Theme 7
数値計算による凍結アジ解凍中の品質変化の予測


この研究では、本研究は、既存のシミュレーション手法を用い、解凍条件によるにおい成分、成分量を組み込んだプログラムを作成することを目的とする。
魚肉の解凍において、やや高い温度と低い温度での解凍でにおいの成分の組成が異なることを利用し、シミュレーションを作った。ガスクロマトグラフィーによって、においの成分の同定をして、GC/MSによって特定したにおい成分の定量を、今後、行っていく予定である。
右図:解凍条件がマアジの臭気成分組成に及ぼす影響



■数値計算による凍結マグロ肉の品質変化予測に関する研究
日本人は、魚を生のまま刺身として食べる習慣がある。なかでもマグロは刺身として多く流通しており、遠洋漁業マグロは漁獲後すぐに凍結され、凍結状態を維持したまま流通、小売店や各家庭で解凍、調理され食べられている。近年、コールドチェーンの発展、冷凍および貯蔵技術の発展により,流通過程において高品質を維持していたとしても、解凍の部分で誤った操作をしてしまうと品質劣化が生じてしまう。そのため、解凍は水産物の品質を維持する上で重要な過程である。

凍結・解凍の過程では凍結濃縮現象により、低温であるにも関わらず、化学反応が促進されることがある。
本研究では、凍結濃縮を考慮した反応速度から、凍結・解凍過程における食品の品質変化を予測できるソフトウエアの開発を目的とする。現在は試料として、凍結・解凍の条件によって品質が著しく変化するマグロサクを用い、マグロ肉の色やタンパク質変性‐ドリップ率の変化の予測を試みている。また、作成した予測プログラムを用いて、氷水解凍などより良い凍結・解凍の方法を模索している。


Manabu Watanabe Group Research Theme 8
凍結装置の性能評価を可能とする標準模擬食品試料の開発


食品を凍結させる際、食品の形や大きさの違い、食品の含水
量や組織構造の違いにより、全く同じ条件で凍結を行ったとしても凍結速度の変化や氷結晶の大きさが変化する。そのため、正確な凍結装置の性能評価ができない。再現性のある凍結装置の性能評価を行うには、食品の大きさ、組織構造が均一な試料を作成する必要がある。 本研究では、食品の大きさ、組織構造の均一な試料の作成を試み、その作成した試料での凍結条件の検討を行った。凍結には一次元凍結法を用いた。一次元凍結することで伝熱方向が固定され、温度測定箇所を固定すれば、再現性ある測定が可能と考えた。

Manabu Watanabe Group Research Theme 9
大温度差凍結システムの優位性に関する仮説と実証


食品を凍結する場合、氷結晶の成長が進むと細胞膜を破壊し、品質が低下する。これを抑えるためには最大氷結晶生成帯と呼ばれる温度域を素早く通過することが重要だと考えられている。そのため、現在、急速凍結は食品を凍結させる際に必要不可欠である。この急速凍結を行うためには食品表面での伝熱速度を支配する3つの要素、1)食品表面の熱伝達率、2)伝熱面積、3)周囲との温度差を大きくする必要がある。その中でも食品表面の熱伝達率を高めることは比較的に容易であるため、通風によって熱伝達率を高めるエアーブラスト式凍結装置が広く普及している。
一方、近年、エアブラスト式でありながら風速を抑え、むしろ大温度差、すなわち極低温を利用した凍結システムが凍結速度、品質も優れるといった説が産業界を中心に浸透しつつある。しかし、工学的、科学的に十分な検証が行われてこなかった。そこで本研究では、このような大温度差低風速凍結装置と、従来のエアーブラスト式凍結装置との比較を行い、凍結速度と品質の面でどのような差異が生じるのか実験的に検証した。

実験方法:業務用として使用されているものと同程度の冷凍能力を持つエアーブラスト式凍結装置と-80℃での保存が可能な低温ストッカーを用いて実験を行った。まず、内部の熱抵抗の違いによって2つの凍結装置で凍結速度に差が出るか否かについて伝熱モデル計算を行った。さらに、厚さの違う模擬食品(寒天ゲル)の無限平板モデルを作成して両装置で凍結処理を行い、凍結所要時間を測定した。この結果とプランクの式によって求めた凍結予測時間を比較し、試料の厚さによって両凍結装置の凍結速度がどのように変化するか検討した。また、凍結後の品質評価として乾燥の様子を観察した。
凍結処理による純氷の乾燥速度から物資移動係数を求め、両装置の乾燥速度を定量的に示した。また、薄い食品サンプルを厚みのある試料の表面と見立て、凍結処理に長時間かかる場合の食品表面の乾燥を測定した。
結果および考察:大温度差低風速凍結装置による食品凍結では、試料の熱伝導率や厚さによってエアーブラスト式凍結装置よりも速く凍結する条件があることが理論と実測より確認された。実測より得られた結果から、濃度1%寒天の無限平板モデルでは厚さが1cm以下の場合はエアーブラスト式凍結装置の方が、それ以上の厚さでは大温度差低風速凍結装置の方が凍結速度が速いことが示唆された。また、両装置の食品表面における水分の物質移動係数を算出した結果、エアーブラスト式凍結装置は1.5×10-4[m/s]大温度差低風速凍結装置は1.0×10-4[m/s]となった。食品表面の乾燥に着目し厚さ0.7mmの食品サンプルを30時間凍結処理した結果、エアーブラスト式凍結装置では元の重量から10%程度乾燥したのに対し、大温度差低風速凍結装置では乾燥による重量変化は見られなかった。この結果から試料が厚く凍結に時間がかかる場合、大温度差低風速凍結装置を用いることでエアーブラスト式凍結装置に比べて凍結時間を短縮でき、さらには食品表面の乾燥を抑え、高品質な食品凍結ができる可能性が示唆された。


Manabu Watanabe Group Research Theme 10
プロペラファンの乱れを利用した伝熱促進に関する研究


食品の製造工程では、多くの場で食品の冷却作業が行われている。例えば、焼成を行った高温のワーク(操作の対象物のこと。今回の場合は冷却される食品)を包装のために常温まで冷却する、というような場合、もちろん常温の室内に放置しておいてもいずれは室温にまで冷却されるが、それでは時間が掛かるため、ファンにより送風を行って冷却時間の短縮を図ることが一般的である。また、冷凍食品の製造においても、フリーザに投入する前にできるだけ温度を低下させておけば、フリーザの負荷が小さくできて、省エネルギー対策として有効である。実際に欧州では、従来は冷凍機を用いていた場面に対して、冷凍機を使わずに室温の空気とファンのみによる冷却(アンビエントクーリングと称される)を適用することで、食品製造工程の省エネルギー化を図る、という方法が盛んに研究されている。
その際に最も多く用いられているのがプロペラファンである。 ファンにも色々な種類があり、形式で分類すると、遠心ファン、斜流ファン、軸流ファン、クロスフローファンに大別され、プロペラファンは軸流ファンの一種である。 プロペラファンは、構造が簡単で、気流面積が大きく取れるため、使いやすさの面で優れており、多く用いられている。しかしファン効率という面から考えると、一般的にプロペラファンは他の形式のファンよりもファン効率が良くない。ファン効率とは、平均流速と圧力から計算される気流エネルギーと、ファ ンに加えられた軸動力の比として定義される が、プロペラファンでは一般に気流の乱れが 大きいと考えられ、それにエネルギーの一部 が取られてしまうのである。このため、エネ ルギー効率の面ではプロペラファンは不利で あると考えられており、省エネルギーという 目的のためには、プロペラファンを使用する ことが適当であるのかどうか、が問題となっ てくる。

ここで気流による冷却のメカニズムを考えてみる。ワーク表面での熱伝達率を向上させるためには気流の流速を大きくすることが一般的である。これは、流速を大きくすることによりワーク表面での速度勾配を大きくして乱流渦の発生を促進し、この渦による撹拌の効果で伝熱を促進させている。ということは、前述のように、プロペラファンによる気流の乱れが大きいとすれば、他のファンに比べて平均流速で劣っていたとしても、乱れの効果により、冷却性能では優れている可能性があると考えられる。
しかし、現在のプロペラファンの使用状況は、これまで述べてきたようなことを特に考慮せず、経験的に行われていると思われる。
本研究により、プロペラファンの特性を活かした使用法を確立できれば、より効率的な冷却が実現され、省エネルギーにつながると考えられる。 一つ一つは小さくとも、ファンは使用台数が多いため、全体として大きな省エネルギーが実現できる。また 、ファン効率で考える限りはあまり評価の高くないプロペラファンであるが、冷却効率の点で優位性が見出されれば、新たな観点からの再評価がなされる可能性もある。

Associate Professor comment:このテーマは、渡辺が2008年度に英国に訪問研究員として滞在した際に手がけた研究の続きです。研究手法としては、伝熱工学や流体工学の範疇に入りますが、それらの分野での研究例といえば騒音低減ばかりで、このように冷却特性に着目した研究は食品工学以外ではまず見られません。このことは、冷却が食品にとっていかに重要であるかを象徴しているように思います。とはいえ、手法としては流体工学が必要となりますので、担当学生は流れの基礎から頑張って勉強しています。