ご挨拶

東京海洋大学 食品冷凍学研究室は、食品冷凍に関する研究を専門的に行っている日本で唯一の研究室で、長い歴史があります。
「冷凍学」という言葉は、ここ海洋大の食品冷凍学研究室が発信元となり、マスコミや各出版、情報ネットワークのテレビ業界でも家庭の冷凍科学として取り上げられ、徐々に浸透しつつあります。
「冷凍学」の目指すところは、冷凍のメカニズムを追求し、食品の保存など、人間の役に立つ技術を開発することです。私たち人間は、ながい歴史を重ねるなかで、ようやく半世紀ほど前に、「食べ物を冷凍して保存する」という技術を手に入れました。
その後、食品の冷凍技術はめざましい進歩を遂げ、食品の保存期間は飛躍的に伸び、さらに食べ物をおいしく保存するということが可能となってきたのです。
その結果、今や冷凍食品は家庭用から業務用まで広く流通しており、私たちの生活に切っても切り放せない程に浸透しています。スーパーなどで目にする商品調理冷凍食品は氷山の一角で、外食産業の裏方を支配しているのは実は冷凍食品です。また鮮魚、精肉のほとんどは、流通工程で一度冷凍されています。日本の冷凍食品生産量の約7割が業務用であり、食品業界では今や冷凍は必要不可欠な技術となっています。

しかし、冷凍学にはまだまだ解決すべき問題がたくさんあります。例えば、冷凍保存ができない食品も幾つかあります。あらゆる食品を、良い品質で冷凍保存できるようにするための技術開発は、宇宙空間での未来食、生体保存まで繋がる果てしない可能性を持っています。
また、地球規模での食糧問題、環境問題は人類の存続に関わる大問題ですが、冷凍技術がより発達すれば、食品の廃棄をゼロにすることもできて、食糧問題解決に大きく貢献します。そのためには、環境負荷を抑えて、高品質な冷凍を行う技術開発も必要です。まさしく、未来社会への可能性に満ちた学問分野です。

食品冷凍学研究室では、素晴らしい可能性を秘めた食品冷凍技術の、より一層の進化と「人に美味しく、地球に優しい」技術の発展を目指して、日々努力を重ねています。

(東京海洋大学 教授 渡辺 学)