一つの生体分子は非常に小さく(10-50 nm)、わずかな効果しか示しませんが、数多くの分子を集積することによってデバイスとして利用できるようになります。整った分子集積構造を構築するために私たちが用いている方法は、水面上で分子を集積して基板上に累積するラングミュア・ブロジェット法(Langmuir-Bldogett:LB)と、溶液中で基板表面と分子が自発的に結合する自己組織化単分子膜法(Self-assembled Monolayer:SAM)です(図は金電極上に集積した生体分子(グルコースオキシターゼ)の原子間力顕微鏡像で、分子レベルの解像度があります)。
現在、これらの技術を駆使してバイオセンサと有機薄膜電子デバイスの二つのテーマで研究を行っています。他大学・公的研究機関との共同研究を積極的に行い、広い視野から研究を進めたいと考えています。
(共同研究先:東京海洋大学科学部、長岡技術科学大学、物質・材料研究機構、産業技術総合研究所 右図)
Techniques
Biosensors and Bioelectronics
半導体微細加工 ・有機超薄膜 ・ 機能性生体分子を融合させた、新しいバイオセンサ開発を行っています。特定の化学物質・生体分子を簡単・高精度に測定する新技術をめざします。
くし型マイクロギャップ電極を用いた高感度免疫センサ
微小な電極間隔のくし型電極を電気化学測定に用いると、酸化還元反応が電極間で高効率に繰り返され、高感度センサとすることができます。この現象をインピーダンス分光で捉えることで、電極付近での抗原-抗体反応などの分子吸着現象を高精度測定できるセンサを開発します。我々が作製したヒト免疫グロブリンを検知するバイオセンサは、従来法の感度を10倍以上高めることが分かりました。図はリソグラフィー技術により作製された微細くし型電極の写真と、表面における酸化還元反応サイクルの模式図です。
有機-無機ハイブリッド系による酵素センサ
性質が大きく異なる無機系-有機系を融合させたハイブリッド薄膜を人工的に構築して、新しい酵素型バイオセンサの作製を行っています。LB膜の層状構造の間に、鉄シアノ塩の一つであるプルシアンブルーのナノサイズ結晶と酵素を取り込んだハイブリッドLB膜を使用すると、プルシアンブルーが示す電気化学的な触媒作用によって、非常に低い印加電位で精度の高い測定が可能となります。私たちは、このような機能をもつLB膜をはじめて作り出し、グルコースやコレステロールなどのセンシングに使用できることを見出しました。 現在はSAMを利用することで、さらに安定なセンサの作製に成功しています。
Pt-Auくし型電極による無電源センサ
Pt-Au異種金属ナノ粒子において、環境中のH2O2の自発的な分解反応が見出されおり、この現象は体内でのドラックデリバリーのための駆動源として注目されています。我々は、この反応がPtとAuをマイクロスケール間隔で配置したPt-Auくし型電極表面においても進行し、反応に比例した電流発生が引き起こされることを明らかにしました。そこで、さらににこの特性を応用することで、外部電源からの電圧印加が不要となる無電源型のセンサを構築できると考え、Pt-Au櫛形電極の表面をグルコース酸化酵素(GOx)の薄膜で覆いセンサ素子としています。実験を行ったところ、本センサはポテンシオスタットを必要とせず、電流計のみでセンサ特性が得られることが分かりました。これは、酵素反応の最終生成物であるH2O2がPt-Au櫛形電極上で分解反応を引き起こし、それに伴う電流発生によるものであることが明らかになりました。
Molecular Devices
近年、発光特性や半導体特性など、様々な性質を持つ分子が発見されており、社会に役立つ新たな利用法の研究が進められています。私たちの研究室でも、数ナノメートルという極薄な、しかし金属のように電気を流す事ができる有機材料の開発を行っています。
有機単分子膜トンネル接合デバイス
電流をよく流す金属で極薄の絶縁層を挟むと、電子の波動性に起因するトンネル電流が絶縁層を流れる様子が室温で観察できます。そこで、SAM法で緻密な構造をもつ1分子の厚さの絶縁膜を作れば、トンネル電流による新しいデバイスが手軽に作れるかもしれません。しかし、極薄の有機薄膜は乱れやすく、通常の方法ではそのようなサンドイッチ構造を作ることができません。そこで、私たちはLB法のソフトな膜形成に注目し、金属のように高い電気伝導性を示すLB膜を使うことで、分子配列を乱すことなく電極を作る技術を開発しました。図は1分子膜を飛び越える電流の電流値-電圧特性(赤)です。この実験結果は、トンネル電流に基づいた理論曲線(青)と良く一致することが分かります。
LB膜による有機薄膜電界効果トランジスタ
ベンゼンのようなπ電子系有機分子には、半導体としての性質を示す分子があり、このような分子を電界効果トランジスタに応用する研究を進めています。LB法では分子方向を揃えてスタックした薄膜を作ることができるため、良好なトランジスタ特性を示す構造の薄膜設計が可能です。
Energy Devices
環境・エネルギー問題への関心の高まりから、近年、高性能エネルギー材料開発や身近にある未利用エネルギーの有効活用を意識した新しい電気エネルギーデバイスの研究開発が進められています。私たちの研究室でも、物理的・化学的視点に基づいた環境低負荷デバイスの基礎研究を推進しています。
三次電池
三次電池は、二次電池技術を転用して、室温付近の温度変化で充電可能とした新しい蓄発電デバイスです。熱で発電する技術には熱電変換技術がありますが、三次電池は、熱電変換のように電極間の温度差を利用して発電するのではなく、デバイスの温度変化を電力に変換することができます。また、熱で得た電力を放電することも可能であるという意味で、熱で充電可能な電池といえます。右図はプルシャンブルー類似体(PBA)という物質を電極として利用した時の三次電池の起電力変化(左)および放電曲線(右)を示しています。この結果から、PBAを用いた三次電池の熱起電力が約1mV/Kであることがわかります。これは、三次電池が従来の熱電変換材料に比べ1桁以上大きな熱起電力を示すデバイスであることを示しています。
ナトリウムイオン二次電池
2019年にリチウムイオン二次電池がノーベル化学賞を受賞したことは記憶に新しいことかと思います。ナトリウムイオン二次電池は、リチウムイオン二次電池のリチウムをナトリウムに置き換えた電池です。ナトリウムイオン二次電池技術は、三次電池開発の基盤技術の一つです。高性能な三次電池を開発するためには、ナトリウムイオン二次電池の技術革新が必要不可欠なため、ナトリウムイオン二次電池電極材料に関する基礎研究を行っています。