遺伝的アルゴリズム(GA)シミュレーション その2

移動の自由度を増加させた場合のシミュレーション

各脚に位相差(dt)を設定した歩行シミュレーション

本研究では、干潟の移動に適したロボットとして、6脚6節の多足歩行型ロボットを提案した。また、このロボットが、平地で歩行する際に適した歩行パラメータの作成を、遺伝的アルゴリズム(GA)によって行ってきた。

リンク:研究メモ>遺伝的アルゴリズム(GA)シミュレーション

今回は、本研究で提案するロボットが水域および沼地で移動することを考え、移動の自由度を増加させた場合のシミュレーションを行う。

移動の自由度を増加させるためには、これまでロボットの各脚に共通のものとして与えていた4つの歩行パラメータ(θ, w1, k, dt)を各脚に設定する必要がある。

図1 各脚に歩行パラメータを設定した場合の遺伝子長

しかし、これらのパラメータを各脚に設定すると、図1の様にGAプログラムでの1個体あたりの遺伝子長が196と大きなものになってしまう。
また、シミュレーションにかかる時間も増加する。

そのため、今回は位相差dtのみ各脚に設定し、自由度の増加と共にシミュレーション時間の短縮を図った。

図2 各脚に位相差を設定した状態図

位相差については、図2の様に左前脚を基準脚(dt1=0)とし、残りのdt2からdt6についてはGAプログラムによって設計する。
したがって、1個体の遺伝子長は以下の図3の様に64bitとなる。

図3 本シミュレーションにおける1個体の遺伝子長

シミュレーションモデルについては前回と同様に、以下の図4の様な胴体部と6つの脚部、腹部に設置した4つのセンサーリンクから構成されるモデルを用いた。

図4 シミュレーションモデル

遺伝子の評価式についても前回と同様に(1)式を用いた。
また、遺伝子が静歩行を行うモデルへと進化するように右辺第4項の重みを大きく設定している。

 

(1)式を用いて、世代数を30、個体数を100に設定しシミュレーションを行った。
その結果、以下の動画の様に胴体をねじるような動歩行に近い動きへと遺伝子は進化していた。

動画1 適応度最大時の遺伝子の歩行シミュレーション(疑似的な動歩行)

また、このシミュレーション中の適応度最大となる遺伝子のパラメータは以下の表1の様になっている。

表1 疑似的な動歩行時のパラメータ

 

この個体のデータを解析すると、動画ではわかりづらいが腹部を地面に接触させずに歩行することは出来ていた。
しかし、図5に示すように胴体中心部では最大で約18[deg]の傾きがみられた。

図5 シミュレーション中の胴体中心部の傾き(疑似的な動歩行)

そのため、移動時の姿勢が不安定なものになっていると言える。
この結果から、安定した姿勢で移動を行うには、胴体の傾きについても考慮する必要があると思われる。

そこで、(1)式に胴体の傾きを評価する項目を加え、評価式を(2)式に変更した。
また、静歩行を行う遺伝子へと進化するように、(2)式の右辺第4項の重みをさらに増加させた。

 

ここで、右辺第4項については、移動距離に対するペナルティ(px)を無くし、代わりに移動距離に応じて適応度の値を設定するようにプログラムを変更した。

(2)式を用いて、世代数を30、個体数を100に設定してシミュレーションを行った。
その結果、遺伝子は以下の動画の様にトライポッド歩行に近いものへと進化していることが確認できた。

動画2適応度最大時の遺伝子の歩行シミュレーション(静歩行)

ここで、本シミュレーションにおいて適応度最大となる遺伝子のパラメータを表2に、シミュレーション中の各脚の挙動を図6に、胴体の傾きを図7にそれぞれ示す。

表2 静歩行時のパラメータ

 

図6 各脚の挙動を示すsin波形

図7 シミュレーション中の胴体中心部の傾き(静歩行)

図7より、歩行中の胴体の傾きはほぼ0に近く、安定した姿勢で移動することが出来ていると言える。また、図6の各脚の波形に注目すると、黄色い波形で示した左後脚だけが他の基準脚グループと位相がズレていることがわかる。(これについては、表2からも確認できる)

そのため、本シミュレーションからは、脚の位相が1脚ズレたとしても静歩行を行うパラメータを作成することが出来たと言える。

最後に、前回および今回の歩行シミュレーションの結果についてまとめたものを以下の図8に示す。

図8 歩行シミュレーションのまとめ

図8より、1脚だけ位相がズレた静歩行について検討する。
まず、胴体の傾きに注目すると、若干の傾きは見られるがトライポッド歩行のシミュレーション結果と同様に安定した姿勢で移動を行っていた。
次に、シミュレーション中の移動距離および速度について比較すると、大きな値の変化は無いが1脚だけ位相がズレた静歩行が1地番評価の高いものであると言える。
したがって、今回のシミュレーション結果から(2)式を評価式として用いることで、様々な歩行パターンの生成が行えると考えられる。

今後は、シミュレーション時間の短縮を考え、非線形同期(van del pol方程式)と遺伝的アルゴリズム(GA)を組み合わせてシミュレーションを行うことを現在検討している。

2017年06月15日