衛星リモートセンシングを応用した海洋学(衛星海洋学)の紹介 東京海洋大学 大学院海洋科学技術研究科 海洋環境学部門 溝端 浩平 はじめに | 衛星搭載型地球環境観測センサーとそのプロダクト | 応用プロダクト・応用研究の例 | 今後の衛星海洋学 |
はじめに |
私は主に衛星観測データを利用した研究を行っています。衛星海洋学という学問ですが、耳慣れない方もいらっしゃると思うのでその紹介をします。 さて、リモートセンシング(以下、RS)とは、対象を離れた場所から測定する手段のことを言います。従ってリモートセンシングには、ここで紹介する人工衛星以外に、航空機や船舶等から観測する技術が含まれます。衛星RSはその名の通り、人工衛星に搭載された測器によって観測を行い、地表面・海洋・海氷・大気の状態を調べる手法です。「衛星写真」は「見えた」だけで良しとされていた一昔前はよく使われていました。しかし21世紀になって写真を研究で使うことはほぼありません。衛星RSによる情報は、地理情報が加味されたれっきとしたデータです。ちなみに「リモセン」と略すと、ごくまれに嫌がる人がいますが、本質ではないので気にしないことにします。現在では天気予報やニュース、映画などで当たり前のように出てくる衛星RSの情報ですが、そこには理由があります。衛星RSの利点は(どの教科書でも書いてある通り)、 1)広域を同時観測できること 2)繰り返し観測できること 3)電磁波観測により、人間の目ではわからない地球の姿を観測できること 4)取得したデータが地理情報であるので、地理情報システム(GIS)への統合が容易であること (基本構成は緯度・経度・パラメータの値で、なおかつ地図上に投影(マッピング)されている) が挙げられます。これらの利点が分野に限らず、現場データが離散的になる地球環境変動研究において、衛星RSが重宝される所以です。 とはいっても欠点がないわけではありません。特に海洋では、 1)海面状態しかわからない 2)海洋の変化に観測頻度が追従していない場合がある という点が挙げられます。少なくとも衛星RS分野の人間は、衛星観測だけで全てが説明できるとは誰も思っていません。現場観測や数値モデリングにも利点・欠点はあり、この3分野が相補的に地球環境変動研究に取り組むのが一般的であり、合理的です。日本の海洋学においては1980年代から衛星RSが応用されはじめ、当初は「衛星写真」として使われていましたが、近年では技術革新とデータセットの充実に伴い、誰もが使えるデータとして配布され、多くのコミュニティーに使用されています。例えばマイクロ波放射計TRMM/TMI・AQUA/AMSR-Eによる海面水温観測やマイクロ波散乱計SeaWindsによる海上風観測は、大気-海洋相互作用の研究に貢献しているだけでなく、気象予報モデルへのデータ同化に用いられています。またGLIやSeaWiFSなどに代表される光学センサは、宇宙から唯一の海洋生態系に直結する変数、クロロフィル-a濃度の時空間分布を明らかにしており、生物地球化学分野や漁場推定の研究に寄与しています。 まずは現状でどのような衛星・センサーが存在するのかを測定しているパラメータとともに簡単にまとめたものを見ていきます。 衛星搭載型地球環境観測センサーとそのプロダクト |