衛星リモートセンシングを応用した海洋学(衛星海洋学)の紹介
東京海洋大学 大学院海洋科学技術研究科 海洋環境学部門
溝端 浩平
はじめに | 衛星搭載型地球環境観測センサーとそのプロダクト | 応用プロダクト・応用研究の例 | 今後の衛星海洋学 
 
衛星搭載型地球環境観測センサー(諸元など)とそのプロダクト
衛星搭載型のセンサーには受動型と能動型があります。それぞれは、
  • 受動型センサー:太陽光を受けて海洋の情報を含んだ海面射出輝度を測定するセンサー
  • 能動型センサー:自らマイクロ波を発射し、地表面から反射されたマイクロ波を測定するセンサー
という意味です。衛星RSによる海洋観測は、観測パラメータ毎に以下の表のように大別できます。以下の表を見れば、いかに衛星搭載型センサーによって地球環境観測が行われているかが解ると思います(ちなみに全てを網羅しているわけではありません)。また時が経つにつれて、高解像度化、多バンド化しており、さらには米国・ヨーロッパ・日本が主体な運用機関ででしたが、最近では韓国やインド・中国が参入してきていることもわかります。海色・海面高度・水温・海氷密接度・海上風はすでに標準プロダクトとして配布され、近年では海面塩分の推定まで行われています。

[海色]:受動型センサー

太陽同期極軌道を採用・海面から射出輝度を測定する。海の色から全植物プランクトンが持つ光合成色素クロロフィル-aの濃度を推定する。

海洋において可視光を測定すると、普段は412~443nm付近の青色に相当する部分に大きなピークがあり、その次に550nm付近の緑色に相当する部分にピークがある。一方で、植物プランクトンがもつ光合成色素クロロフィル-aは短波長側の可視光(412~443nm、青色)を吸収する。従って、植物プランクトンが増殖した海の表面では青色が選択的に吸収され、残った光が空中へ射出される。結果的に海は緑色に見えることになる。
この特性を活かして、青と緑の比から経験的に海洋のクロロフィル-a濃度を導くアルゴリズムが開発改良されてきた。海色衛星はそのアルゴリズムに引き渡す可視光データの取得を行っている。その他にもCDOM(Color Disolved Organic Matter、溶存有色有機物質)、SS(Suspended Sediment、懸濁物)などが推定されている。

数ある衛星搭載型センサーの中で、海色センサーは唯一生態系に直結するパラメータを導くセンサーである。

衛星名/センサー名 [運用機関]  運用期間 解像度・Repeat Cycle・
軌道傾斜角・高度 
波長・プロダクト  
Nimbus-7/CZCS(Coastal Zone Color Scanner) [NASA]  1978/10/24 - 1986/06/22 825m・6日・99.15°・955km 443,520,550,670
,750,1150nm
海色・植物プランクトン
バイオマス
ADEOS(Advanced Earth Observing Satellite)/OCTS (Ocean Color and Temperature Scanner) [NASDA/NASA] 1996/08/17 - 1997/06/30 700m・4日・98.62°・802.9km 412,443,490,520,
565,670,765,865nm
3.35~3.88,8.25~8.80,
10.3~11.4,11.4~12.7μm
クロロフィル-a、海面水温
Orbview-2/SeaWiFS (Sea-viewing Wide Field-of-view Sensor) [NASA] 1997/08/01 - 2010/12/11 1100m・16日・98°・705km 412,443,490,510,555,
670,765,865nm
クロロフィル-a、海面水温
Terra/MODIS (Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer) [NASA] 1999/12/18 - 1100m・16日・98.2°・700km 可視域36バンド
クロロフィル-a、海面水温
Aqua/MODIS [NASA] 2002/05/04 - 1100m・16日・98.2°・700km 可視域36バンド
クロロフィル-a、海面水温
ADEOS2/GLI(GLobal Imager) [NASDA] 2002/12/14 - 2003/10/31 1100m・4日・98.62°・802.92km 可視域23バンド
クロロフィル-a、海面水温
COMS/GOCI(Geostationary Ocean Color Imager) [KOSC] 2010/06/26 - 500m・-・静止・36000km 8バンド(400-865nm)
クロロフィル-a、海面水温
今後打ち上げられる予定:Suomi/VIIRS, Sentinel-3A,GOCI-2, PACE, GCOM-C/S-GLI(Second generation of GLI, JAXA)
[海面高度・重力]:能動型センサー

センサーからマイクロ波を発射し、海面に反射してセンサーに帰ってくるまでの時間から、センサーから海面までのキョリを測定する。予め、衛星の位置(高度など)はGPS、DORIS、スタートラッカーによって高精度で算出されており、ジオイド高、潮汐補正、大気補正等を施すことで精確な海面高度を得ている。

潮汐等のエイリアジングを避けること、極域を観測するかしないか、などで、それぞれの軌道設計が大きく異なる。

基本的には、軌道直下のみを測定しているが、空間解像度を向上させるため(面的に捉えるため)、近年では干渉型海面高度計の打ち上げが予定されている。

衛星名/センサー名 [運用機関]  運用期間 解像度・Repeat Cycle・
軌道傾斜角・高度
波長・プロダクト  
Geosat [US Navy]  1985/03/10 - 1990/01/31 軌道直下・17日・-・800km -
ジオイド、海面高度
 
ERS(European Remote Sensing)-1/RA(Radar Altimeter) [ESA]
【RA以外に、AMI、ATSR、MWS、Prare、LRRを搭載】
1991/07/17 - 2000/03/31 軌道直下・35日・
98.5°・785km
Kuバンド(13.8Ghz)
海面高度、有義波高、海上風

TOPEX(TOPography Experiment)/Poseidon [NASA/CNES]  1992/08/10 - 2006/01/18 軌道直下・9.9156日・
66°・1336km
C(5.3Ghz)およびKu(13.6Ghz)バンド
海面高度
ERS-2/RA [ESA]
【RA以外に、AMI、ATSR、MWS、Prare、LRRを搭載】
1995/04/21 - 2011/07/06 軌道直下・35日・
98.5°・785km
Kuバンド(13.8Ghz)
海面高度、有義波高、海上風

GFO(Geosat Follow-On) [US Navy/NOAA] 1998/02/10 - 2008/11/26 軌道直下・17日・
108°・800km
-
海面高度
Jason-1/Posidon-2 [CNES/NASA]
【Poseidon-2以外に、JMR、DOEIS、LRAを搭載】
2001/12/07 - 2013/07/01 軌道直下・9.9156日・
66°・1336km
C(5.3Ghz)およびKu(13.6Ghz)バンド
海面高度
Jason-2/Poseidon-3 [CNES/NASA/Eumetsat/NOAA] 2008/06/20 - 軌道直下・9.9156日・
66°・1336km
C(5.3Ghz)およびKu(13.6Ghz)バンド
海面高度
Cryosat-2/SIRAL (the SAR/Interferometric Radar Altimeter) [ESA] 2010/04/08 - 軌道直下・369日(30day-subcycle)・
92°・717km
Kuバンド(13.575Ghz)
氷河・氷床・海氷・海面高度
HY(HaiYang(中国語で海))-2A [Chinese Academy of Space technology] 2011/08/15 - 軌道直下・14 & 168日・99.3°・971km CおよびKuバンド
海面高度・海上風・海面水温
Saral(Satellite with ARgos and ALtika)/AltiKa (Altimeter in Ka-band) [ISRO(インド)/CNES] 2013/02/25 - 軌道直下・35日・
98.55°・800km
Kaバンド(35Ghz)
氷、降雨、沿岸域、波高
今後打ち上げられる予定:Sentinel-3(ESA、2015年)、Jason-3(CNES/NASA/Eumesat/NOAA、2015年)、CFOSAT(CNES/CNSA、2015年)、Jason-CS(ESA/Eumesat/CENS/NOAA/NASA、2017年)、SWOT(CNES/NASA/CSA、2020年)
[海面水温]:受動型センサー

海面から放射される電磁波(熱赤外域)を観測し、熱放射エネルギーから海面水温を推定する。

物体の熱放射エネルギーは、物体の温度と放射率に依存する。海面の放射率はほぼ1なので黒体放射とみなすことができる。黒体の放射輝度はプランクの放射則で定義され、波長と温度の関数になる。海面から放射される電磁波のピークは熱赤外域にあるので、衛星搭載型センサーで同領域の電磁波が計測され、海面水温に換算されている。

衛星名/センサー名 [運用機関]  運用期間 解像度・Repeat Cycle・
軌道傾斜角・高度
波長・プロダクト  
NOAA/AVHRR(Advanced Very High Resolution Radiometer) [NOAA]  1978 -
現在NOAA-19(最終号機)が観測中
1.09km・1日・
99°・833-870km
5チャンネル
海面水温
 
TRMM(Tropical Rainfall Measuring Mission)/TMI(TRMM Microwave Imager) [NASA/NASDA] 1997/11/28 - 4-38km・46日・
35°・350km
10.7、19.4、21.3、
37.0、85.5GHz
雲水量、可降水量、海面水温、海上風速
Terra/ASTER(Advanced Spaceborne Thermal Emission and Reflection Radiometer) [NASA] 1999/12/18 - 15-90m・16日・
98.2°・700km
リンク
ADEOS2/AMSR [NASDA] 2002/12/14 - 2003/10/31 6x10km~40x70km・
4日・98.62°・802.92km
6.925、10.65、18.7、
23.8、 36.5、50.3、52.8Ghz
海面水温、土壌水分
Aqua/AMSR-E [NASA/JAXA] 2002/05/04 - 2011/10/04(運用停止)--> 現在2rpmで観測を継続中 3.7x6.5km~43x75km・
16日・98.2°・700km
6.925、10.65、18.7、
23.8、 36.5、89Ghz
海面水温、土壌水分、海氷密接度
GCOM(Global Change Observation Mission)-W1/AMSR2 [JAXA] 2012/05/18 - 3x5km~35x62km・
16日・98°・700km
6.925、10.65、18.7、
23.8、 36.5、89Ghz

海面水温、土壌水分、海氷密接度
今後打ち上げられる予定:GCOM-W2?
[海氷密接度・海氷厚]:

海氷密接度:水と氷では、放射輝度に差が生じる。この特性を利用して、複数バンドデータの組み合わせから、1ピクセルに占める海氷面積の割合を推定する。推定式には、Nasa-teamアルゴリズム、ブートストラップアルゴリズムの2つがある。

海氷厚:海面と海氷の上面との高度差(Freeboard)を検出し、氷の高さを推定する。薄氷域には向かない。
衛星名/センサー名 [運用機関]  運用期間 解像度・Repeat Cycle・軌道傾斜角・高度 波長・プロダクト  
Nimbus-7/SMMR(Scanning Multichannel Microwave Radiometer) [NASA]  1978/10/24 - 1986/06/22 27x18~148x95km・6日・99.15°・955km 6.6, 10.7, 18.0, 21, 37Ghz,
海氷密接度
 
DMSP/SSM-Iシリーズ 1987/06/18 - 38x30~70x45km・6日・98.8°・832ー851km 19.3Ghz, 22.2Ghz, 37.0Ghz
海氷密接度
AMSRシリーズ 海面水温の表を参照
ICESat/GLAS(Geoscience Laser Altimeter System) [NASA] 2003/01/13 - 2010/06/23 軌道直下・91日・94°・590km 532,1064nm
海氷厚
Cryosat-2/SIRAL [ESA]  海面高度の表を参照 
今後打ち上げられる予定:ICESat2(NASA, 2016年)
[海上風]:

風速ベクトル:
風により海面に波が生じると、電磁波の海面散乱が大きくなる(散乱係数が海上風の風向・風速に依存する)。そこで電磁波の海面散乱を測定し、Geophysical model functionをベースに風向風速を推定している。


衛星名/センサー名 [運用機関]  運用期間 解像度・Repeat Cycle・
軌道傾斜角・高度
波長・プロダクト  
ADEOS/NSCAT(NASA Scatterometer) [NASDA/NASA]  1996/08/17 - 1997/06/30 50km・4日・
98.6°・802.9km
13.995Ghz
海上風
QuikSCAT/SeaWinds 1999/06/19 - 2009/11/23 25km・4日・
98.6°・802.9km
13.4Ghz、189Ghz
海上風
Coriolis/Windsat [US Navy]  2003/01/06 - 8x13km~39x71km・-・98.6°・840km 6.8, 10.7, 18.7, 23.8, and 37.0 GHz
海上風
今後打ち上げられる予定:GCOM-W2?
[海面塩分]:

マイクロ波1.413Ghz帯は、物体が含有する水分量に依存して放射輝度値が変化する。この特性を利用して、海面塩分を推定している。ただし、この特性は対象そのものの温度が低くなるほど不明瞭になるため、相当高感度なセンサーでなければ極域観測には適用できない。
衛星名/センサー名 [運用機関]  運用期間 解像度・Repeat Cycle・
軌道傾斜角・高度
波長・プロダクト  
SMOS [ESA/CNES]  2009/11/02 - 100x100km~300x300km
・7日・98.44°・755km
1.413GHz
海面塩分、土壌水分
 
SAC-D(Scientific Application Satellite-D) /Aquarius [NASA] 2011/06/10 - 76x94km~96x156km・
7日・・657km
1.26, 1.413GHz
海面塩分、土壌水分
今後打ち上げられる予定:N/A
応用プロダクト・応用研究の例