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調理・保蔵過程におけるジャガイモ澱粉の消化性に関する研究
体内において重要なエネルギー源となるデンプンは食事に欠かせない成分であり、摂取後の血糖値上昇に大きく関与する。デンプンを豊富に含む食品として米や小麦などの穀物類、ジャガイモやサツマイモ等のイモ類が挙げられるが、一般にこれらデンプン性食品は血糖値を上昇させやすい高GI(Glycemic index)食品に分類される。食後の急激な血糖値上昇は体への負担となるため、デンプンの消化・吸収は古くから研究されている。また、国内外ではⅡ型糖尿病患者や肥満の増加が懸念されており、血糖値コントロールの必要性からデンプン性食品の摂取方法に関心が集まっている。デンプンはその構造によって体内での消化性が異なり、調理や保蔵過程の工夫によって消化されにくい食品創生を提案することが可能であると考える。
本研究では、代表的なデンプン性食材であるジャガイモを対象として加熱や冷蔵保存によるデンプン消化性の変化を様々な手法を用いて調べ、デンプン性食品における最適な調理・保蔵方法について検討する。 -
非侵襲的な検査方法によるサラダ喫食時における人体の応答に関する研究
ポテトサラダは栄養価が高く消費量の多いサラダであるが、カロリーや糖分の過剰摂取等の懸念が指摘 されている。
本研究では、非侵襲的な手法を用いてポテトサラダを摂食試料として血糖値のスパイクを調べ、マヨネー ズ添加の影響および冷蔵保管の影響について検討した。その結果、マヨネーズ添加のポテトサラダでは、 喫食後の血糖値の急激な変動が小さくなることが分かった。
本研究の成果により、非侵襲的手法の利用が人の健康に与える影響についての直接的知見を得ること に有効であることが示され、今後、機能性研究の一つの新たな評価手法として期待できると考えられた。
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陸上養殖サーモンの生産・利用に関する研究
昨今世界的に発展、注目されている陸上循環型養殖(RAS: Recirculating Aquaculture System)では、養殖中の魚体に付着する土臭さや泥臭さ、また、カビ臭などで例えられる「におい」の発生が品質低下の問題点とされてきた。そのため、陸上循環型養殖で養殖したサーモンは、出荷の前にこのにおいを取り除くための「パージ処理」という工程を行っている。この工程は、陸上養殖システムの効率化の大きな課題である。これら異臭の原因物質は、ジオスミンおよび2-メチルイソボルネオール(2-MIB)が挙げられているが、研究例が少なく抑制への技術に結びついていない。
本研究では、陸上循環型養殖サーモンに付着するにおいの原因解明と、調理加工におけるにおいの原因解明と、調理加工におけるにおい抑制方法の検討を行っている。
☆本研究は、(株)林養魚場およびNECネッツエスアイ(株)との共同研究の一環で行っている。
右上図RASシステム※1→※1:(株)林養魚場ホームページ、https://www.hayashitrout.com/htfras.html -
冷凍用野菜の香気・臭気成分の変化
冷凍野菜は新鮮な取れたて野菜に比べて香りが乏しいといわれる。その原因解明と制御法を冷凍枝豆を例に調べる。
枝豆は大豆の未熟種子であり、生で入手できる期間が比較的短いため冷凍枝豆が広く市販されている。枝豆を冷凍処理する際「ブランチング」工程が重要であると言われている。 しかし、香り成分に焦点を当てると、ブランチング後の大量の水での急冷によって香り成分の流出損出が大きい可能性が否定できない。そこで枝豆のブランチング処理の有無による香気成分の比較、そして枝豆香気を構成する香気化合物の特定を目的とする。また、「匂い嗅ぎGC/MS」といった機器と人の鼻による知覚検出を組み合わせた分析手法を用いて行う。 -
ミョウガの未利用部位からの機能性成分の利用に関する研究
ミョウガは特有の香気、色合い、辛味など他に類を見ない特徴を持つ香味野菜である。一般にミョウガと呼ばれているのは花蕾部であり、この花蕾部を食用としている。その特徴的な紫色の色素成分は、機能性成分でもあるアントシアニンであり、抗酸化性を有するポリフェノール化合物の1種である。
可食部以外、根元の茎が残渣として排出されている。このような野菜残渣は水分を多く含むため、焼却や埋め立てによって処理するには効率が悪く、食品廃棄時のエネルギー消費によるCO2の排出は環境にも悪影響である。また、残渣の処理にもコストがかかり、これらのことから残渣の有効な利用法も現場では望まれている。
本研究の目的は、ミョウガ残渣の利用価値を調べ、有効利用方法について検討することである。紫色の薄い残渣の内側部分では可食部と比較して、測定された栄養素は少なかったが、外側部分では可食部に近い含有量が測定された。内側と比較して外側でより多くのポリフェノールであるアントシアニンが含まれていることが分かった。 -
凍結濃縮による植物性素材の有効成分の抽出および濃縮
生姜やミョウガは製品として出荷される形になる際に残渣と呼ばれる未利用部位(図1)や、おろし生姜へ加工する工程で製品の水分量の調整のため除去される搾汁液ができる。これらにはシトラールをはじめとした香気成分やアントシアニンなどの色素成分、タンパク質を分解するプロテアーゼなどの酵素も含まれている。しかし、活用されず廃棄されることが多いのが現状である。
そこで、本研究では有効成分を多く含む濃縮液を得る方法を検討し、これら廃棄素材の有効活用を目的とする。生姜・ミョウガからの効率的な搾汁方法を検討した後、得た試料液を用いて濃縮を行う。濃縮には熱に弱い成分の損失が少ない凍結濃縮法を利用する。装置は小型界面前進凍結濃縮装置 (※1)を使用し(図2,図3)、試料液の濃縮を行なっている。 まず、効率的に最大濃縮となる条件を検討し、機能性成分がどの程度濃縮されているか、調べている。
*1:裴承権, 宮脇長人, & 荒井綜一. (1994). 2. 前進凍結濃縮法における凍結界面状態の制御とその凍結濃縮効果に及ぼす影響 (平成 6 年度第 40 回低温生物工学会研究報告). 低温生物工学会誌, 40(2), 29-32. -
野菜のブランチングなし冷凍法開発に関する研究
野菜は予備加熱(ブランチング)してから凍結すれば長時間凍結貯蔵できる。ブランチングは生鮮野菜をボイルもしくはスチームで数分熱を通し、大量の水で急速に冷却、その後に凍結するという方法で、その目的としては、野菜中に存在する酵素を失活させる、野菜に付着している微生物の殺菌などが挙げられる。一方それらの効果と引き換えに、大量の水で冷却することによる栄養成分や香気成分の損失などが起こり生鮮野菜の価値が損なわれる。
本研究では、非ブランチングの状態、つまり生鮮の状態で凍結・解凍を行っても生鮮農産物と同等の品質を持つ冷凍野菜の開発を行なう。
【凍結耐性の高い野菜の検討】 サラダとして用いられる生で食されることのある野菜類を凍結・解凍して破断強度を比較した。 測定の結果を右図に示した。多くの野菜は凍結解凍後に最大荷重が減少していることが分かる。しかし、パプリカは最大荷重の減少が見られず、歯ごたえを保持している可能性が考えられた。また、圧縮試験中多くの野菜は試料中の水分が染み出しているのに対し、パプリカは水分の染み出しがほとんどなく、水分を保持していることが明らかとなった。 引き続き他の野菜の検討も行い、ドリップ率の測定や細胞観察を行う予定である。 -
冷凍甲殻類の黒変防止法開発に関する研究
ズワイガニやクルマエビといった甲殻類は死後、体が黒く変色する黒変と呼ばれる現象が生じる。黒変が生じてしまった甲殻類は元の色には戻すことはできず、商品価値を失い、破棄されてしまう。漁獲後の扱いの難しさがズワイガニやクルマエビが高値で流通される理由の一つである。現在、黒変の防止法としては亜硫酸塩等が多く利用されているが化学添加物抜きでの生で黒変を生じない甲殻類の流通手段として冷凍による流通が拡大している。しかし、生鮮甲殻類の冷凍品も流通時や解凍時に黒変が生じることが多く報告されている。
黒変が生じる理由として、体内に存在するフェノールオキシダーゼと呼ばれる酵素が生体防御の際や死後に活性化し、基質と反応することで黒色の色素であるメラニンが合成されることにより黒変が生じる。
本研究では、冷凍中、解凍中における反応経路の進行の詳細を調べ、冷凍甲殻類の適切なハンドリング手法を開発することを目指している。 -
生鮮ウニの冷凍復元性に関する研究
ウニは保存性が低く、漁獲できる期間も限られていることから、食べられる地域や時期が限定され、希少価値の高い食材である。生ウニは、その保存性の向上のためにミョウバンがしばしば使用されているが、苦味が出てしまうため、本来の生ウニの味とは言いがたい。加えて、昨今の消費者の添加物を忌避する傾向から、ミョウバンの使用は避けたいと考えられている。しかし、生ウニを前処理なしに凍結すると身崩れが生じ、商品価値が著しく低下してしまうため、冷凍保存技術の確立が求められている。
本研究では、生鮮ウニの冷凍復元性に関する要因を探り、新規凍結方法の考案をすることで、冷凍復元性を向上させることを目的としている。 -
冷凍による漉し餡の変化
和菓子は季節に応じた商品を販売するため、短期間で集中的に商品を製造する必要がある。そのため、水分量の多い和菓子の保存には冷凍保存が有効であるとされている。例として和菓子の主要材料である漉し餡は、デンプン質及び水分量が多く、冷凍保存が適しているが、漉し餡の冷凍についての研究は未だ数少ない。漉し餡は、冷凍保存すると表面が白くなる場合がある(Fig. 1参照)。お萩など外側に餡がある和菓子は、密閉包装ができないため冷凍保存時に餡表面が白くなる影響を受ける。
本研究では、漉し餡を包装材などに密着させる面を極力小さくしフリーザーに直接入れ、凍結・解凍後に表面が白化する現象についての原因解明を目的としている。実験手法としては偏光顕微鏡観察、X線回折測定により、糖結晶の観察や小豆の老化度合いの確認を行った。その結果、小豆デンプンの老化が白化現象に関係している可能性が示唆された(Fig. 2参照)。
現在は凍結速度に着目し、エアーブラスト機による急速凍結により漉し餡を凍結させることで、白化現象が抑制可能であるかを検討中である。
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マイナス温度におけるマイクロ波吸収挙動の解明
冷凍食品の解凍法の一つとして、電子レンジ解凍が挙げられる。電子レンジ解凍、すなわちマイクロ波 による加熱は、短時間で食品を加熱することができる一方、加熱ムラという問題も存在し、議論されてい る。そもそも、電子レンジで食品が加熱される原理は、その食品に含まれる水(液体)が、レンジ庫内に放 出されるマイクロ波(周波数2,450 MHz)を吸収、振動することで発熱するというものである。しかしながら、 水がマイナス温度で凍結して氷になると、マイクロ波はほとんど吸収されず、透過してしまう。そのため、 氷は水(液体)に比べ、きわめてしにくい。すなわち、このことが、冷凍食品における電子レンジ解凍の加 熱ムラが生じる原因であると考えられている。先行研究では、食品に含まれる不凍水(食品成分と結びつ きがあり、マイナス温度下でも凍らない水≒結合水)が着目され、不凍水の量や電子レンジの出力との関 係性について検討され、不凍水量が多いほどマイクロ波によって加熱されやすいと報告されている。
本研究では、不凍水をコントロールしたモデル食品を組み合わせたものを実験試料とし、その不凍水量 の差が解凍に及ぼす影響を追究している。また、加熱後は実験試料をサーモグラフィーカメラで撮影する ことで、温度分布の可視化にも取り組んでいる。 -
アイスクリームの凍結条件と結晶構造に関する基礎研究
アイスクリームの保存中の品質劣化の一つにラクトースの結晶化がある。それが成長し大きくなることでテクス チャー(食感、舌触り)に影響を及ぼすということが知られており、アイスクリームの砂状化と呼ばれる。砂状化した 製品はそのアイスクリーム特有の滑らかさが失われ商品価値を大きく損なうため、ラクトースの結晶化メカニズムを 知ることは重要である。
アイスクリームの中で析出するのはラクトース水和物であり、ラクトースは溶解度が小さく、溶けにくいため、アイ スクリームの氷結晶が口の中で融けた後も長く残存し、舌や喉に違和感を生じる原因となる。
本研究では、ラクトース結晶化を核発生と結晶成長の二つのフェーズとして捉え、温度や濃度による結晶化への 影響を定量的に評価し、ラクトース結晶析出の条件を制御することを目指している。 -
アイスクリーム中のラクトース結晶の核発生と成長に関する研究
アイスクリームの保存中の品質劣化の一つにラクトースの結晶化がある。それが成長し大きくなることでテクスチャー(食感、舌触り)に影響を及ぼすということが知られており、アイスクリームの砂状化と呼ばれる。砂状化した製品はそのアイスクリーム特有の滑らかさが失われ商品価値を大きく損なうため、ラクトースの結晶化メカニズムを知ることは重要である。
アイスクリームの中で析出するのはラクトース水和物であり、ラクトースは溶解度が小さく、溶けにくいため、アイスクリームの氷結晶が口の中で融けた後も長く残存し、舌や喉に違和感を生じる原因となる。
本研究では、ラクトース結晶化を核発生と結晶成長の二つのフェーズとして捉え、温度や濃度による結晶化への影響を定量的に評価し、ラクトース結晶析出の条件を制御することを目指している。 -
ポテトサラダの調理前処理によるGABA量の変化
ジャガイモは、栽培の容易さから世界中で栽培・喫食されおり、ポテトサラダなどの商品で消費されて いる。ジャガイモはビタミン類やカリウムなどの栄養素を豊富に含んでおり、その中でもGABAという成分 が他の野菜と比較して豊富に含まれている。GABAとはγアミノ酪酸の略称で、非たん白質構成アミノ酸 である。GABAは抑制性の神経伝達物質であり、ヒトに対して血圧降下やストレス緩和、睡眠の質の改 善などの効果があることが報告されている。
GABAは、L-グルタミン酸のα-脱炭酸によって生合成される。その生合成では、 グルタミン酸デカル ボキシラーゼ(GAD)という酵素によって触媒される。GADの活性至適温度は30~50℃であると報告され ており、GADの活性度によってGABA量を増加させることが期待される。
本研究では、ポテトサラダの中間原料としてのマッシュポテトの製造工程において加熱工程があるが、 前処理として予備低温加熱処理および凍結処理を施すことによるGABA量の変化を調べている。低温加熱処理条件によるGABA、Glu、Gln含有量
篠埼雅大、李潤珠、鈴木徹、
「ポテトサラダの調理前処理によるGABA量の変化」
第71回日本食品保蔵化学会、2022年6月、北海道