溝端 浩平 / Kohei Mizobata
Ocean Remote Sensing: Practical Data Analysis 02

Rrs からクロロフィル a 濃度を推定する

前回の RGB 画像では、MODIS の複数波長の反射率を赤・緑・青に割り当て、海の色の違いを可視化しました。 今回は、その波長別のリモートセンシング反射率 Rrs から、NASA 標準 chlor_a プロダクトで用いられる OC3M、Color Index(CI)、OCI ブレンドの考え方をたどり、クロロフィル a 濃度を推定します。

Aqua/MODISOcean ColorRrs chlor_aOC3MColor IndexOCI

この解析の中心的な問い

衛星はクロロフィル濃度を直接測っているのか?

答えは「直接ではない」です。衛星が測るのは、海面から出てくる波長別の光です。 そのスペクトル形状と現場観測の関係から、クロロフィル a 濃度を経験的に推定します。

データと前提

項目内容注意点
使用データAqua/MODIS Level-3 mapped 8-day Rrs と chlor_a今回はアルゴリズム理解を優先し、L3 mapped データを使って地図化しやすくする。
入力変数Rrs_443, Rrs_488, Rrs_547, Rrs_555, Rrs_667OC3M と CI で必要な波長が少し異なる。
出力変数chlor_a、クロロフィル a 濃度、単位 mg m-3衛星から直接測った濃度ではなく、Rrs から推定した値。
比較対象NASA 標準 chlor_a product自作推定値と完全一致しない場合がある。QC、binning、SeaDAS/OCSSW 内部処理の影響を受ける。
この解析では NASA OB.DAAC の chlor_a ATBD に基づき、R2022 の説明にある t1 = 0.25, t2 = 0.35 の OCI transition を使います。 Hu et al. (2019) では OCI2 として 0.25–0.40 mg m-3 の transition も議論されていますが、 ここでは授業用に NASA ATBD の実装説明に合わせます。

解析フロー

Step 1

Rrs と chlor_a の関係を確認する

海色リモートセンシングで衛星が扱う基本量は、波長別のリモートセンシング反射率 Rrs(λ) です。 植物プランクトンが増えると、クロロフィル a による吸収のため青色域の反射率が低下し、相対的に緑色域の反射率が高く見える傾向があります。

Conceptual Rrs spectra
Fig. 1. クロロフィル a 濃度や懸濁物の違いに伴う Rrs スペクトル変化の概念図。実測値ではなく、授業用の模式図である。
重要な考え方
RGB 画像で見えた「海の色の違い」は、波長ごとの Rrs の違いとして定量的に表せます。 クロロフィル推定アルゴリズムは、この Rrs と現場観測された chlor_a の経験的関係に基づきます。
Step 2

OC3M:青/緑比から chlor_a を推定する

MODIS の OC3M は、青色域の反射率と緑色域の反射率の比を使う band-ratio algorithm です。 クロロフィル a が増えると青色域の反射が相対的に弱くなるため、青/緑比は chlor_a と関係します。

項目式または値
MODIS OC3M の比max(Rrs_443, Rrs_488) / Rrs_547
多項式log10(chlOC3M) = a0 + a1 X + a2 X^2 + a3 X^3 + a4 X^4
XX = log10(max(Rrs_443, Rrs_488) / Rrs_547)
係数[0.26294, -2.64669, 1.28364, 1.08209, -1.76828]
Rblue = max(Rrs_443, Rrs_488);
X = log10(Rblue ./ Rrs_547);
logChlOC3M = a0 + a1*X + a2*X.^2 + a3*X.^3 + a4*X.^4;
chlOC3M = 10.^logChlOC3M;
OC3M は広い濃度範囲で使いやすい一方、低クロロフィル外洋域では微小な Rrs 誤差が chlor_a のノイズとして出やすくなります。
Step 3

CI:緑バンドと青−赤ベースラインの差を使う

Color Index(CI)は、緑バンドの Rrs が、青バンドと赤バンドを結んだ線形ベースラインからどれだけずれているかを見る方法です。 低クロロフィル濃度の外洋域では、この band-difference 型の指標が、従来の band-ratio 型よりも画像ノイズやセンサー間差に強い場合があります。

Color Index baseline schematic
Fig. 2. CI の考え方。緑バンドの Rrs と、青・赤バンドを結ぶ線形ベースラインとの差を計算する。
CI = Rrs_555 - (Rrs_443 + (555-443)/(667-443) * (Rrs_667 - Rrs_443));
chlCI = 10.^(-0.4287 + 230.47 * CI);
CI は「クロロフィル蛍光 FLH」とは別の量です。CI は chlor_a 推定用の三波長差分アルゴリズムであり、 RGB 画像で見える水色の微妙な違いを低濃度域で安定に扱うための工夫です。
Step 4

OCI:低濃度では CI、高濃度では OC3M、中間ではブレンドする

NASA 標準 chlor_a は、単一の式だけで計算されているわけではありません。 低クロロフィル濃度域では CI、高濃度域では OCx/OC3M を使い、その間を滑らかにブレンドします。

OCI blending concept
Fig. 3. この解析で使う OCI ブレンドの概念図。判定と重みは chlCI に基づく。
t1 = 0.25; t2 = 0.35;
if chlCI <= t1
  chlOCI = chlCI;
elseif chlCI >= t2
  chlOCI = chlOC3M;
else
  chlOCI = chlCI*(t2-chlCI)/(t2-t1) + chlOC3M*(chlCI-t1)/(t2-t1);
end
大事なポイント
ブレンドの切り替え判定は chlOC3M ではなく chlCI に基づきます。 これは NASA ATBD のブレンド式と対応しています。
Step 5

OC3M・CI・OCI の地図を比較する

MATLAB スクリプト CompChl_fixed.m では、NASA 標準 chlor_a、OC3Mのみ、CIのみ、OCIブレンド、アルゴリズム source flag、標準 product との差を順番に図示します。

内容見るポイント
NASA standard chlor_a配布されている標準 product自作推定値の比較対象。
OC3M only青/緑比のみで推定低濃度域でノイズや不自然なパターンが出ないか。
CI only三波長差分のみで推定低濃度域で滑らかか。高濃度域まで使ってよいか。
OCI blendCI と OC3M を濃度域で切り替え低濃度域と高濃度域の長所をどうつないでいるか。
source flagCI / blend / OC3M の使用領域どこでどのアルゴリズムが使われたか。
% 実行する MATLAB スクリプト
CompChl_fixed.m
Step 6

NASA 標準 chlor_a と自作推定値を比較する

最後に、自分で計算した OCI 推定値と NASA 標準 chlor_a product を比較します。 差は log10(OCI estimate) - log10(NASA standard chlor_a) として表示します。

似ているはずの点大きな空間分布、黒潮域・沿岸域・外洋域の濃度差、主要な高濃度域。
一致しない理由L2 flags、雲・陸・浅海域マスク、L3 binning、SeaDAS/OCSSW 内部処理、Rrs_555 補正など。
完全一致しないこと自体は失敗ではありません。この解析の目的は、NASA 標準 product の内部で使われる 「Rrs から chlor_a を推定する考え方」を理解することです。

この解析で特に強調すること

  • 衛星は chlor_a を直接測っているのではなく、波長別の Rrs を測っている。
  • OC3M は青/緑比に基づく経験式で、広い濃度範囲を扱いやすい。
  • CI は緑バンドと青−赤ベースラインの差に基づく三波長差分で、低クロロフィル域の安定性を改善する。
  • OCI は CI と OC3M を濃度域に応じて使い分けるハイブリッドアルゴリズムである。
  • chlor_a は植物プランクトン量の proxy であり、種組成や一次生産量そのものではない。
  • 沿岸域や濁水域では CDOM、懸濁物、浅海底反射などの影響に注意する。

課題

レポートでは、図を貼るだけでなく「どのアルゴリズムがどの濃度域で使われるか」と「なぜ単純な青/緑比だけでは不十分な場合があるか」を説明すること。
  1. RGB 画像で水色が違って見えた領域と、chlor_a が高い領域は一致しているか。例を挙げて説明せよ。
  2. OC3M と CI の式の違いを、入力波長と計算方法の観点から説明せよ。
  3. CI が低クロロフィル域で有効とされる理由を、画像ノイズまたはセンサー間整合性の観点から説明せよ。
  4. source flag 図を見て、CI、blend、OC3M が使われている海域の特徴を述べよ。
  5. 自作した OCI 推定値と NASA 標準 chlor_a が完全に一致しない理由を三つ挙げよ。
  6. chlor_a を「植物プランクトン量」として使うときの注意点を述べよ。

参考資料

資料この解析での位置づけ
NASA OB.DAAC Chlorophyll a ATBDNASA 標準 chlor_a の OCx/CI/OCI ブレンドと MODIS 係数の根拠。
Hu et al. (2019), JGR OceansOCI アルゴリズムの改良、transition、低クロロフィル域での画像品質・センサー間整合性の説明。
本ページの図は、添付PDFの図を直接転載したものではなく、授業用に作成した模式図です。

次の解析へ

RGB 画像と chlor_a 推定により、可視域・海色リモートセンシングの基本を確認しました。
次は MODIS + AMSR2 SST 合成 に進み、赤外 SST とマイクロ波 SST の相補性を扱います。

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