地球上をダイナミックに循環する水。今、その状態変化を利用して 海底に存在する「燃える氷」をも新たな資源として活用する方向。 |
古代ギリシャの哲人・ターレスは「万物の根元(アルケー)は水である」と唱えているが、自然科学が発達した現代において、これは真理をついた表現であると言える。水の特異な性質が地球上にあらゆる恩恵を与えていることは事実であり、本研究室のテーマ「冷凍」もまた水に翻弄されながら、その特性を活かす学問と言える。ここで示す地球の水循環は、一見、本研究室と関わりのないように思えるが、水が固体・液体・気体と状態を変えるさまは、まさに食品冷凍学の原理や新しい可能性を考える良いヒントが詰まっている。
水の循環に出発点はないが、まず膨大な水が存在する海を見てみよう。食品科学の観点から豊富な生物が生息するだけでなく、食品保存の観点からも注目するべき現象が見て取れる。それは氷山である。
図中の氷山にマンモスが見えるが、実際に永久凍土と言われる氷中に腐ることなく形を保ったマンモスが発見されたことは記憶に新しい。腐敗の防止には、水の状態変化が関係している。つまり水が氷結晶となることで、腐敗・劣化などの原因である微生物の増殖・化学反応を停止させることが可能である。この現象は、まさに冷凍食品の保存性の良さのカギであり、食品冷凍学の基礎を示していると言える。
一方、気温の高いところで海の水は、積極的に蒸発し雲を成している。つまり水は気体へと変化している。雲は空へと上昇し、その周囲の温度が低下することで雨・雪となり、地上に降りてくる。
雨や雪の形成過程を覗いてみると、氷結晶形成プロセスの理解に役立っていることがわかる。
水蒸気が雨(水)・雪(氷結晶)になるには、まず核が必要となる。水の結晶化温度(核が形成する温度)は-40°付近にあるため、理論的には水の中に核が形成し、氷結晶が形成するのは -40℃付近である。しかし、0℃以下のいわゆる過冷却状態にある水は非常に不安定であり、水の中のチリを核とし、-40℃とならずとも氷結晶へと変化できる。雨や雪において過冷却の程度はあまり重要と考えられないが、冷凍食品においてその程度は、品質を決定する重要な要因である。雲の中で氷結晶となった水は落下を始め、周囲の温度に依存して雨となったり、雪となったりする。その一連の変化は、冷凍食品の形成から食卓に並ぶ解凍の過程までを簡略化して表現している様である。
雨や雪となりって地上に降り注いだ水は、川などを通じて再び海へと戻る。海には多量の水があり、そのずっと深いところ、いわゆる深海にも水の結晶が存在する。氷様結晶であるガスハイドレートは、氷結晶とは異なる水の結晶である。海底にある様々な生物の死骸によって形成されたメタンガス分子を水分子が取り囲んだ形を成して、巷では燃える氷として紹介されることがある。これはエネルギー資源として注目されているが、本研究室では応用的利用法として食品保存への利用を試みている。この様に我々の身近で起こっている自然科学的な事象は、本分野においても深い関係がある。それらの事象を応用的に利用し、生活に活かすべく研究を進めるのが本分野の特徴と言えるだろう。ここに紹介した以外にも、自然界では様々な興味深い事柄があり、その現象を活かし・利用するアイデアは無限にあるだろう。