当研究室では主に都市貨物交通を対象とした研究を行っています。
MIT-ITS Lab
University Gustave Eiffel/IFSTTAR (French Institute of Science and Technology for Transport)
Singapore University of Technology and Design
Harbin Institutte of Technology, Shenzhen
Rensselaer Polytechnic institute
等の様々な在外研究機関とも協同しています。
これまでの主要な研究
都市圏貨物交通シミュレーションと施策分析
MIT-ITS Lab(https://its.mit.edu)による、高度な行動モデルと新しいデータソースを活用した、エージェントベースの都市圏交通シミュレータ、『SimMobility』の貨物交通モデルの開発を主導してきた。『SimMobility Freight』は、最先端の貨物交通シミュレータの1つであり、様々なタイプの物流関連施策を分析することができる。具体的には、SimMobility Freight全体のシステム設計の他、都市圏内の貨物流、配送のサイズと頻度、運送業者のロジステックス業務、また、Eコマース需要・配送をシミュレートするモデルを開発した。更に、SimMobility Freightを用いて、配送時間制限・夜間配送、集約配送スキーム、クラウド配送、貨物車用駐車施設の再配置など、一連の物流施策について分析を行い、それらの効果、および、施策設計上の留意点を明らかにした。
ビッグデータ・センシングデータを含む新たなデータソースの活用
SimMobility Freightの開発と並行して、革新的なデータソースの活用に関する研究を行ってきた。ある研究では、貨物車GPSトレースデータの後処理アルゴリズムを提案し、2017年から2019年にかけてシンガポールにて収集されたデータに適用の上、その特性を比較している。処理されたデータは、貨物車挙動特性の分析や、シミュレータの開発・評価に有用である。実際に、このデータを用いて、モデルの比較研究を行った。また、シンガポールにおいて、MIT-ITS Labが開発したFuture Sensing Platform(スマートフォンのセンシングを利用した行動・交通調査のシステム) を使用した、主にEコマースを対象とした調査を行った。そのデータは次世代のEコマース需要・配送モデル開発への利用を前提としている。
物流土地利用と交通影響
近年、高い処理能力を持つ大規模な物流センターが利用されるようになり、結果として、都市物流施設の空間的な再構築が世界各地で発生している。空間分析手法を用いて、再構築のプロセス、特性、および影響(渋滞、排出ガス、エネルギー消費等の交通影響)を分析した。また、都市物流土地利用・交通シミュレータ『ULLTRA-SIM』を用いて、物流施設の空間分布に関する政策を、政策、物流拠点、物流チェーン、そして、外部性の関係を考慮し、評価した。関連して、フランス国パリ地域を対象とし、『ロジスティックス・ランドスケープ』のコンセプトに関するケーススタディを行った。このコンセプトは南カリフォルニア大学の研究チームによって「人口、雇用、輸送ネットワークの特性に基づく貨物活動の説明」と定義されている。人口と雇用の空間分布、交通システムと、パリ地域の貨物交通の関係を分析し、都市貨物輸送を特徴づける主要なアクセシビリティ特性を明らかした。また、フランス国パリ地域における物流施設とその活動カテゴリ(倉庫、配送センター、卸売り施設、等)に関するデータを使用し、各活動カテゴリ毎に物流施設の立地選択モデルを推定している。
進行中・将来の研究
Eコマースに関連した物流施策・ソリューション
Eコマースは既往の物流システムを大きく変容させており、消費者の利便性を向上させる一方で、小包配達の増加は貨物流を非効率にしている。貨物流・貨物交通の効率性は、ほぼ各企業の自律的な取り組みに依存しているが、それは基本的に、企業利益、及び、サービスの質を優先するために、負の外部性(例えば環境影響)を削減するためには公的なイニシアティブを必要とする。コロナ禍により、在宅勤務やオンライン講義が一般的になり、Eコマースの需要が急増しているが、この需要は更に大きく増加する見込みである点を踏まえ、次世代の共同配送システム、公共受け取り施設、需要と供給のマッチング(例えば、配送車両・オンデマンド車両の余剰容量を利用した、消費者への宅配サービスの提示)等を提案、評価する。またその中で、公共セクターの役割や災害時に備えたシステム要件について明らかにする。
長期的な都市構造の変化と土地利用政策について
過去数十年の物流システムの変容は物流土地利用に大きく影響を与えてきたが、Eコマースの定着により、関連物流施設(例えば配送センター)の必要性が一層増すことが予測される。一方、従来の小売店・商業施設が減少することや、在宅勤務の普及により、オフィス街における活動が縮小することが考えられ、これに、オンデマンド自動運転車等の普及や需要減による公共交通のサービスレベルの低下などの要素が加わり、世界的に今後数十年にかけて都市構造が大きく変化する可能性が高い。主に物流の観点から、こうした長期的な都市構造の変化とその交通流・環境への影響について、分析、及び、評価を行い、都市・地域計画において考慮されるべき事項を明らかにする。
分析プラットフォームとしてのシミュレータの開発・改良とビッグデータの活用
主に上記の研究課題のために、最新の行動分析モデル・データサイエンスの手法を取り入れつつ、都市・交通シミュレータの継続的な開発・改良を行う。
ビッグデータを含む新しいデータソース(GPSデータ、センシングデータ、カメラデータ、配達記録等)、新たに提案される施策・ソリューション、
また、コロナ禍や震災・災害対策等の計画ニーズに応じてシミュレータを更新する。
ビッグデータの活用は、このシミュレータに関する研究と共に位置づけ、各データから知見を引き出すと共に、継続的、及び、オンラインでの分析・利用を検証する。