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漁民のエンパワメント

 日本の沿岸においては、ほぼ占有的な沿岸資源環境利用を認める漁業権が漁業者(漁業協同組合)に賦与されており、それゆえ漁業協同組合は漁場へ影響を及ぼしうる事業の実施に対して強い発言力を持ちます。しかし、こうした状況は、少なくとも江戸時代〜明治以降の開拓地であった北海道では当然に付与されたものではなく、協同運動にその多くを負います。
 エンパワメント(empowerment)とは「力(power)を獲得する」という意味ですが、「人々が開発過程において能動的主体として社会に参加し、資源にアクセスしたりできるようになり、その結果、自らの意思決定における自律性を取り戻していく過程」などと定義されています。とくに北海道東部の沿岸においては、漁協運動をとおして、昭和初期の金融と販売制度の改革があり、その後、戦時の統制経済や戦後の混乱による揺り返しがあったものの、経済基盤の強化と漁業協同組合内制度の民主化が相互干渉的に発展した、という経緯がありました。これは漁民のエンパワメントのひとつの形です。

 ところで、沿岸資源利用の管理については、1990年代以降の世界の趨勢として、地域共同体と行政機関は管理主体として二者択一的なものではなく、ともに欠かせざる存在であることから、「共同管理(co-management)」が望ましい形態として認識されるようになりました。共同管理の定義には、「政府と地域資源利用者が管理責任と/または権限を分け合う」、という基本的なものから、「政府機関、地域共同体、資源利用者、NGO、その他の関係者が、それぞれの文脈に沿って特定の地域や資源の集まりの管理のための権限と責任について協議するパートナーシップ」 として関係者の協働を強調するものなどがあります。共同管理には「責任を持って漁業資源を持続的に利用していくために必要」であり、「資源をめぐる紛争を緩和する」、と期待が寄せられています。そして、日本の漁業資源管理はこの好例としてしばしば言及されます。

 一方、世界の多くの沿岸では、陸域の養殖池や宅地などの開発と海域の水質汚染や漁獲圧が高まるなかで、零細な漁民が政府機関やトロール船の他の利害関係者と対等な立場で沿岸資源環境を共同管理することは容易ではありません。こうした状況のもとで、マレーシアの「ペナン浅海漁民福利協会 (Penang Inshore Fishermen's Welfare Association;以後、PIFWA)」の活動は注目に値します。PIFWAは、1994年にマレーシア国ペナン州で零細沿岸漁民が初めて自発的に結成した漁民組織です。初期のトロール船の沿岸漁場侵入への対抗手段としての組織化をはかったPIFWAは、エビ養殖池拡張への反対運動として始めたマングローブ植林を恒常的な活動とし、政府機関や企業や市民との協働を模索しています。


マレーシア国ペナン州の事例


 ペナン州の漁村にて零細漁民の船。

 PIFWAの事務所での話し合い。

 PIFWAのマングローブ植林地のひとつ。

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